第十五章 忘却の夢迷宮
第一話 定まらぬ未来
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は、セイバーであった。
「―――タバサ。あなたは、これからどうするつもりなのですか」
「あなたには関係ない」
直ぐにタバサからの返事があるとは思っていなかったのか、セイバーはベッド上に未だ仰向けに転がるタバサを見つめ直す。
「……本当に、そう思っているのですか」
「それ、は……」
天井を見つめるタバサの瞳が大きく歪み、揺れる。
それを見て、セイバーは再度尋ねる。
「あなたは、どうするのですか」
どうするのだと。
どうする?
そんな事は……。
「……そんな事は……決まってる」
セイバーから逃げるように、壁へと顔を向けるタバサ。
セイバーは、タバサの事情について知っていた。この都市―――カルカソンヌに着く前に、キュルケから一応の事情を聞いていたのだ。そのため、先のタバサの言葉だけで、続きは容易に想像出来た。
父を殺され、母を狂わされ、自身の人生を壊した男をどうするかなど決まっている。
だからこそ、言わなければならない。
彼女に、伝えなければならない。
「……タバサ、一つだけあなたに言いたい事があります」
「…………」
拒否するように背中を向けるタバサに向かって、セイバーは口を開く。
「過去は変えられません。ですが、未来は変える事は可能です」
「ッ―――そんな事は」
分かったような事を口にするセイバーに思わず振り返ったタバサは、静かに自分を見つめるセイバーと視線が合うと勢いを無くしそのまま黙り込んでしまう。
「―――分かっている。ですか?」
何時もの冷淡ともいえるタバサの様子からは考えられない苛立った声。“雪風”の名を感じさせない熱と感情の篭ったそれを、セイバーの小さな、しかし鋭い声が切り裂く。
「……」
波立つ感情のまま荒々しく振り返ったタバサは、先程から高まり続ける動悸を抑え込むように胸を握りしめながら、自分を見下ろすセイバーを睨み付ける。
「……からかってる?」
セイバーの身体を冷気が包み込む。
タバサの閾値を超えた感情が自身の魔力と連動し、無意識に周囲の温度を下げたのだ。
床や壁に霜が降り。切りつけるような冷気が身体を刻む中、眉ひとつ動かすことなくセイバーは微動だにしない。
「からかってなどいません」
「なら、何故そんなふざけた質問を」
「ふざけてもいません」
「何を……」
何を言っている、どういうつもりだと、タバサは言いたかった。
過去は変えらない―――そんな事は、当たり前だ。
死んでしまった父を救うことは不可能で、家族三人での優しく穏やかな日々は永遠に戻ってこない。
何も知らなかった無邪気な自分に、もう|なる〈戻る〉ことは出来ない。
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