第一部
第五章 〜再上洛〜
六十四 〜人を想うという事〜
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夜も更けた頃。
「……主。起きておられますか?」
「何だ?」
星は、そっと私の胸を撫で回す。
「寝物語に、交州の話など如何ですかな?」
「うむ、聞こう」
「ふふ、主。私は稟や風とは違います、風聞の類ばかりやも知れませぬぞ?」
「それでも構わん。各地を訪ね歩いたお前の話ならば、聞く価値は十分だ。それに」
「……それに?」
返礼ではないが、星の髪を梳ってやる。
「こうしている時の星は、素直そのものではないか。信ずるに値する、と思うが?」
「……全く。主、これ以上夢中にさせるおつもりですか」
拗ねたような口ぶり。
……それでいて、更に身体をすり寄せてくる時点で、説得力は皆無なのだが。
「交州は、朝廷の支配が及ぶ南端、というのはご存じですな?」
「うむ」
「確かに、この洛陽からは遠い地。ですが、気候は温暖で、産物も豊かな地なのです」
「ほう? 并州や幽州とは真逆だな」
「そうです。それに、南方からの交易品も多く流通し、庶人の暮らしぶりも良いと感じました」
星は、利点ばかりを並べ立てているのか。
……いや、そうは感じぬな。
「先の黄巾党の乱でも、被害は殆どなかったとか。中央から遠い事が幸いし、つまらぬ政争とも縁がない。ですから、寧ろあの地への赴任を望んだ方もおられたとか」
「ふむ。良い事ずくめではないか」
「そうですな。無論、異民族とも接していますし、中央から遠いという事は出世は望めませぬが。……尤も、主のように、眼中にない御方には短所とはなり得ませぬな」
「もし、星の申す通りであれば、それこそ争奪戦が起こる条件が揃っている事になるが……」
「でしょうな。ですが、とにかく洛陽から遠く離れた地、その一点のみで事情を知らぬ者からは敬遠されます」
十常侍らは、そこまで知った上で手を回したのであろうか?
……いや、そうではあるまい。
幽州は白蓮が、涼州は馬騰がいる。
あの二人を配置転換する事は事実上不可能であろう。
并州は月が治めていた地、そこに私を置くのは何かと不都合な上、この司隷に近過ぎよう。
となれば、尤も司隷から遠く、かつ間に荊州や揚州がある交州ならば、影響を及ぼせぬ。
それに、元々土豪ではない私だ、何処へ任じようとしがらみはない。
……ふっ、奴らなりに深慮遠謀を巡らせたという事か。
「とは申せ、不慣れな地を治めるには、それなりの時を費やす事になるな」
「それは仕方ありませぬ。ですが、主の手腕は既に皆が知っています。それに、稟や風らがおります。無論、治安や兵の鍛錬は私や愛紗らが務めますぞ」
「……そうだな。頼りにしているぞ」
「ふふ、お任せあれ。……願わくば、今少しこうした日を持っていただけるなら、より一層の働きを見せますがな?」
悪戯っぽく、星は笑う。
「善
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