僕を許す君がいけない
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そりゃそうだ。正常な俺ならこんな事絶対に言わねェ。でももう正常な俺なんてきっとどこにもいない。
「……俺ァ、おかしくなっちまったんでさァ」
ぽつぽつと、言うつもりのなかった本音が口から出て行く。
「俺だって近藤さんと真選組が一番大事な筈なのに、段々アンタを独り占めする事だけに頭ん中支配されて……アンタが俺だけを見てくれりゃいいなんて馬鹿な事考えるようになって。恋人ってだけじゃ満足しきれなくなった」
「総、悟……」
「これ以上の関係なんてあり得ねェ事くらい分かってんのに、我慢できなくなって、俺ァ……狂っちまった」
段々苦しくなって視界が滲む。
「……俺が完全に狂っちまったらきっとアンタや真選組の邪魔になる、それだけは絶対駄目だ。だからアンタに最後のチャンスを、」
――ガシャァァ!
そこまで言いかけたところで土方さんが目の前にあった刀を投げた。
あまりの出来事に目を丸くして言葉を失っていると、不意に温もりに包まれる。
混乱した頭では抱き締められたのだと理解するのに数秒かかった。
「……すまねェ」
絞り出すように告げられた言葉に頭は更に混乱する。
何でアンタが謝るんだよ。悪いのは全部俺なのに。
「様子がおかしい事には気付いてたのに、こんなになるまで苦しんでる事に気付いてやれなかくてすまねェ……俺は、お前の恋人なのに」
髪を優しく梳かれていよいよ泣いてしまいそうになって、恐る恐る土方さんの背中に腕を回して肩に顔を埋める。こんな情けねェ顔見られたくなかった。
「総悟……確かに大事なもんの優先事項は変えてやれねェけど、俺はずっと傍にいるから、だからそんな悲しい事言うな」
「もしまた同じようにおかしくなっちまったら俺が全部受け止めてやる。お前が馬鹿な事したらその度に止めてやる。だからもう我慢すんな」
土方さんの言葉一つ一つが心に染みていく。氷のように冷たかった何かが溶け出していく。
馬鹿だなァ、アンタ。本当に馬鹿だ……アンタは優し過ぎるって何回言えば分かるんでィ。
いつまた狂うか分からねェ俺を傍に置いておくなんて、真選組のリスクにしかならねェのに。
――嗚呼、やっぱり俺ァこの人が好きだ。
こうも簡単に俺の心を溶かしちまう。気に喰わねェけど愛しくて堪らない。
溢れ出た涙を土方さんの肩口で拭ってから足の鎖も外してやる。それでも暫くはお互いを離せなくて抱き締め合ったままだった。
「……帰ろう。きっと近藤さん心配してんぞ」
「でも……」
「お前の悪ふざけに付き合っただけ。それで良いだろ。怒られるだろうがな」
「……へい」
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