癡 翁
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、多い日で二十四五人か。
あの子たあ落語の会で懇意になってさ。1階の南山ラウンジ - ほれ、カラオケと風船バレーをやる - あそこで去年の暮れ方、寄席があって、若手の噺家が、ボランティアだろうが、昼飯を食い終わる時分に来て、これから落語が始まるからみんなで南山ラウンジへ行くよ!ってって車椅子を押した職員が行きつ戻りつ。けっこう集まったな、あの日は。80人、うーん、70人ばかり入ったか?入所、通い、障害の人も来て。啓子ちゃんが降りて来てさ、俺の隣に車椅子をつけて。
それまで挨拶以上の世間話をしてはいたが。よく喋った。噺家のする話なんざロクに聞かない。特別に機嫌が良かったんだろう。
以来だよ、ちょいちょい遊びに来てんのは。
「おはようございまあす」って、10時すぎだね、こっちへ会釈しいしい、そこの廊下を車椅子を動かしちゃすーっと目の前を通って、向こうのホールへは障害者同士ってことで一応挨拶がてら顔を見せるとすぐまた「おはようございまあす」って我々年寄りの居るこっちのホールへやって来る。
「横溝さあん、夕べよく眠れましたかあ?」「戸田さあん、朝ごはんに何が出たんですかあ?」「今日もよろしくお願いしまあす」ってね。
塗り絵とパズルを膝にのせて、だれかれ順ぐりに声をかけながら「何々さあん、どうしましょう。私このごろ頭を使ってなくて物忘れが始まっちゃいましたあ。珍しい面白い謎謎、御存知ありませんかあ?」「お返しにひとつこういう問題は如何ですかあ?」「よかったら一緒にパズルを考えませんかあ?」「この絵、どのようにするんですかあ?私分かりませーん。教えてくださあい」ってね。
それじゃあ我々はオヤ啓子ちゃんってなろうさね。
なにしろ愛嬌たっぷり。今じゃ「啓子ちゃん啓子ちゃん」って我々のアイドルよ。
お雛様に合わせてサプライズ誕生日パーテーをしてな、先々月。河合さんも入って。涙を浮かべて喜んでた。俺なんか惚れてんな。
まあ、啓子ちゃんだって、障害のほうに居ちゃあ話の種がないだろう。ゲーム遊びやら体操やら、中に入らないで、本を見てるっていうしね?障害者食堂で食べるお昼とおやつを除きゃあ、午前と午後、大概ここで過ごすよ。風呂に入る順番次第で向こうのワーカーが呼びに来てる。
自分は少し早めに廃疾したのでお仲間に入れて頂きます、あちらの方方は生まれつきで、自分とはそこが違っていて気が合わない、みたいな話をしていたっけ。
ああいう大きな声を出して歩きまわる知的の人たちと一緒にされるのが嫌なのか、ことによると、おっかながってるのか。いや、分かんないがね?
話てえばしょっちゅう二人で旅の話をするよ。昔行った国の風景だの景色だの、国境をまたげば風習が異なるだの、言葉だの、着るものだの、乗り物だの、食い物だの、寺だの、
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