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極短編集
短編16「あの白いボールはどこいった?」

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「ウッウッ」「あいっ」

「んっんっ」「だっ」「まんま」

 これらの喃語(なんご)を駆使して、息子は感じたものを、外の世界に発信していた。1歳3ヶ月の時の事だ。
 ふと、自分の記憶を呼び起こした。僕には1歳半からの記憶があるからだ……

「もっと、ちゃんとしゃべってるつもりだったんだけどなあ〜」

 と、僕は妻に言った。

「まわりの大人が、代弁してたからじゃない?今の私達のように」

 息子は、「んっんっ」とか「まんまっ」が基本言語だ。それを僕らが言葉にする。

「んっんっ!」

「おっぱい欲しいって!」

「違うわよ。抱っこして!だよね」

 妻が抱っこをする。息子は、一度は抱っこされたが、すぐに降りた。

「んっんっ!」

 何かを訴えて、空を見る。

「風か……?」

「んー!」

 納得した様子。両手を広げた。抱っこをすると、空を見上げた。ゆっくりと流れる風が、息子には見えているのだろうか?

「なあ、何色に見える?」

「……」

 息子はキョトンとしていた。

「まだ言えないよ〜」

 と、妻が代弁した。

「そうだよな。まだ色の名前をちゃんと教えてなかったもんな」

 色は妻に教えてもらわねば。僕には、『正確な色』は分からないから。見えている色や感じ方が違うから。

「ってか、風に色はついてないよ〜、葉っぱが揺れたんだよ〜」

 妻は、代弁した。
持って来たボールを転がす。僕は息子が放り投げたボールを拾う。そのうち、トンでもない方向に、息子がボールを投げた。転がっていくボール。僕は、そのボールを拾った。

「ボールあったよ」

 だけど、息子は……

「んっんっ!」

 と、言って否定している。これは、白いボールじゃないよ!と。

「なるほど、そうか!」

 息子の投げた白いボールは、泥んこになって黒いボールになってしまったからだ。いつから、言葉は生まれたのだろう……でも、きっと……

「感じる心が、先なんだろうな」

 と、僕はつぶやいたのだった。

おしまい


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