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至誠一貫
第一部
第五章 〜再上洛〜
六十一 〜魑魅魍魎〜
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 確かに、月の事も気がかりだ。
「ならば、私が参ろう。宮中に入れる者は他におらぬ」
「そうね。頼むわ」
「うむ。愛紗、霞。済まぬが、宮城の外まで同行を」
「御意!」
「わかったで!」
 愛紗の諫言を受けて、という事もあるが、この情勢下、何が起こるかわからぬ。
 二人がいれば、何かと心強い。
「風は此処で待て。星や鈴々らもそろそろ戻っているであろう、政庁に知らせておけ」
「はいー」

 外に出ると、あちこちが騒然としていた。
 庶人達にも噂が広がったのであろう。
「宮中の不祥事が、ここまで早く漏れ出るとは、な」
「……それだけ、腐敗が酷いっちゅう事やろな」
「嘆かわしい事です。ご主人様、急ぎましょう」
「うむ」
 借りた馬を駆り、宮城へと急ぐ。
 月の屋敷からならば、徒歩でもさほどの距離ではない。
 程なく、正門へと辿り着いた。
「止まれ! 何者か!」
 衛兵に誰何された。
「助軍校尉、土方歳三だ。道を開けよ」
「はっ、失礼しました。何用でしょうか?」
「私は陛下の親衛隊。用件を言わねば門すら通せぬと申すか?」
「申し訳ありませんが、何人たりとも通すな、と」
 数人の兵士が、槍を手に出てきた。
「ほう。それは陛下のお言葉か?」
「お答えしかねます。お引き取りを」
 兵士は、固い表情で言った。
「宮中で異変があったと聞き、馳せ参じたのだ。通せ」
「そのような風聞を真に受けたと仰せですか?」
「どうあっても、そこをどく気はないのだな?」
「…………」
 黙って、全員が槍を構える。
「貴様ら!」
「度胸だけは買うたる。せやけど、武人に槍向けるっちゅうんは、当然、わかっとるんやろな?」
 愛紗と霞が、私の前に進み出る。
 青龍偃月刀に飛龍偃月刀。
 よく似た二つの武器に、いずれ劣らぬ遣い手。
 兵らの顔に怯えが見えるのも、無理はない。
「土方様! 狼藉は厳罰に処せられますぞ!」
「ほう。ただ陛下の臣である私が、此処を罷り通るというだけで罰せられると申すか」
「ですから、お引き取りを」
「ならば、理由を申せ。理由は言えぬ、だが帰れ、では承服しかねる」
 無論、彼ら自身の意思ではない事は明らかだ。
 恐らくは、十常侍らの差し金であろう。
「や、やむを得ん。かかれっ!」
 兵らが突進してきた。
「歳っち。ええんやな?」
「仕方あるまい。だが、殺してはならぬぞ?」
「わーっとるわい! 愛紗、いくで」
「ああ!」
 まさに、刃を交えようというその時。
「待てい! 何を騒いでおるかっ!」
 素晴らしい一喝が、辺りに響き渡った。
「た、大将軍閣下!」
「此処を何処だと心得るかっ! 控えよ!」
 いつになく威厳に満ちた様に、兵らはただただ、狼狽えている。
 ……見
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