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至誠一貫
第一部
第五章 〜再上洛〜
六十一 〜魑魅魍魎〜
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思えぬ造りだからな」
「……そうね。さ、入って」
 詠の部屋そのものは広々としていたが、机と寝台を除けば、山のように積まれた書物以外に目立った物はない。
 無欲な詠らしいな。
「そこらの椅子に適当に腰掛けて。で、内密の話って?」
「月の事だ。良からぬ噂が流れている事、耳にしているか?」
 詠の顔が曇る。
「月が専横を振るおうとしている、って噂ね?……あり得ないわよ」
「それは私とて信じるに値せぬとは思うが。いや、私だけではない」
 愛紗と風も、大きく頷く。
「噂の出所を探っているところよ。尤も、可能性は二カ所しかないわね」
「二カ所? 十常侍共以外にあると申すか?」
「ええ。何太后、あの御方という可能性も捨てきれないわ」
「しかし、それでは妙な事にならないか? 現に月殿は陛下と昵懇の間柄ではないか」
「愛紗ちゃん。嘘を真にする、という策かも知れないという事ですよー」
「どういう事だ?」
 愛紗は首を傾げているが、私には詠らの言わんとするところが見えてきた。
「敢えて、月に不利な噂を流して、十常侍らと対決させる。若しくは対決まで望めずとも、退路を断てば月に選択の余地はなくなる。そのようなところか?」
「ええ、そんなところでしょうね」
「何と悪辣な! それでは月殿が不憫でなりません」
「でもでも、十常侍さん達が流したと見るのが自然でしょうけどねー。月さんが傍に居る限り、陛下を思いのままにするのはちょっと大変ですから」
 いずれにせよ、このまま捨て置けば月が苦しむのは必然。
 ……いや、月の父である私も、他人事では済むまい。
「とりあえず、風も疾風ちゃんと一緒にいろいろと調べてみるですよ。詠ちゃんだけでは大変でしょうしね」
「助かるわ。本当は、ボクも月にずっとついていたいのだけれど」
 悔しげに、唇を噛み締める詠。
 陪臣でしかない詠は、宮中に自由に出入りする事は許されぬ。
「詠! た、大変や!」
 と、霞が部屋に飛び込んできた。
「あれ、歳っちらも来とったんか」
「うむ。それよりも、何事だ?」
「ああ、せやった。閃嘩から知らせがあったんやけど、宮中で大事件があったんやて」
「大事件? 霞、一体何があったの?」
 詠は、訝しげに尋ねる。
「何進はん、襲われたらしいねん」
「襲われただと? 何者にだ?」
「それが……。十常侍の一人、蹇碩やっちゅう話や」
 蹇碩だと?
 曲がりなりにも、八校尉の筆頭を兼ねている故、確かに兵も連れているが。
 ……いや、宮中で大々的に兵を動かすのは無理であろう。
 となれば、限られた人数での凶行と見てよいな。
「それで、何進さんはご無事なんですかねー?」
「そこまではわからへん。せやけど、宮中は大騒ぎらしいで」
「でしょうね。……月は、大丈夫かしら?」
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