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至誠一貫
第一部
第五章 〜再上洛〜
六十 〜蠢く影〜
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戸惑う愛紗だが、風はいつもと変わらぬ様子で続けた。
「乗りかかった舟ですよ。それに詠ちゃんは、月さんの事になると見境がなくなりますからねー」
「……そうなったら、私に抑えろ、そう言いたいのか?」
「それも否定しませんよー。ただ、愛紗ちゃんがどうしても嫌、と言うのなら無理強いはしませんけどね」
 横目で、私を見る風。
「愛紗。私の代わりとして頼めぬか?」
「ご主人様の代わり……ですか?」
「そうだ。事は急を要する、本来なら私がやらねばならぬのだが。それに、お前達二人が出向けば、それだけで詠もただ事ではないと悟るであろうしな」
「わかりました。では大任ですが、お受け致します」
 ……大仰なのは些か気になるが、風もついている以上、大丈夫であろう。
「では、先に私は月のところに参る。お前達は四半刻程後に向かえ」
「はっ!」
「はいー」

 屋敷を出てすぐ。
 何者かに、尾行されている事に気付いた。
 私と知っての事か、それとも別の意図があるのか。
 以前にも、似たような事があったが、素性は不明なままであったな。
 やはり、捕らえるべきか。
 とにかく、暫し様子を見る事とする。
 人気のない路地を選んで歩きたいところだが、そこまで地理に明るくはない。
 大通を進むより、他になさそうだ。
 此方も気配を探りにくくなるが、やむを得まい。

「おい、このガキ! 何処に目をつけてやがる!」
「ガキとは何ですか! ねねは子供ではないのです!」
 何やら人だかりが出来ているところに出くわした。
 その輪の中で、誰かが言い争いをしているようだ。
 しかも、片方の声と口調には聞き覚えがある。
 周囲を見渡すが……警備兵の姿は見えぬな。
「済まぬ。道を開けてくれ」
 野次馬を掻き分け、前に出る。
 ……やはり、そうか。
 柄の悪そうな男数名と睨み合う、小柄な少女。
 紛れもなく、ねねだ。
「おい、ガキ! テメェがぶつかってきたせいで、骨折したじゃねぇか。どうしてくれるんだ?」
「ふざけるななのです。そのぐらいで骨折する訳ないのです」
「あ〜? まだわかっちゃいねぇようだな、コラ?」
「とにかく、落とし前つけて貰おうじゃねぇか。来い!」
 そう言って、別の男がねねに近寄る。
「ちんきゅうキーック!」
 素早く躱したねねは、男に飛び蹴りを浴びせた。
 ……が、
「効かねぇなぁ」
 あっさりと男に、捕えられてしまった。
「は、放せなのです!」
「うるせぇ! へっへっへ、たっぷり思い知らせてやるぜ」
「そうだな。身体に教え込んでやるぜ」
 ……下衆共は、絶えぬものだ。
 野次馬はただ、戦々恐々とするばかり。
 警備兵はどうやら、間に合いそうにもないな。
 やむを得まい、見過ごす事が出来よう筈も
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