第一部
第五章 〜再上洛〜
六十 〜蠢く影〜
[4/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
戸惑う愛紗だが、風はいつもと変わらぬ様子で続けた。
「乗りかかった舟ですよ。それに詠ちゃんは、月さんの事になると見境がなくなりますからねー」
「……そうなったら、私に抑えろ、そう言いたいのか?」
「それも否定しませんよー。ただ、愛紗ちゃんがどうしても嫌、と言うのなら無理強いはしませんけどね」
横目で、私を見る風。
「愛紗。私の代わりとして頼めぬか?」
「ご主人様の代わり……ですか?」
「そうだ。事は急を要する、本来なら私がやらねばならぬのだが。それに、お前達二人が出向けば、それだけで詠もただ事ではないと悟るであろうしな」
「わかりました。では大任ですが、お受け致します」
……大仰なのは些か気になるが、風もついている以上、大丈夫であろう。
「では、先に私は月のところに参る。お前達は四半刻程後に向かえ」
「はっ!」
「はいー」
屋敷を出てすぐ。
何者かに、尾行されている事に気付いた。
私と知っての事か、それとも別の意図があるのか。
以前にも、似たような事があったが、素性は不明なままであったな。
やはり、捕らえるべきか。
とにかく、暫し様子を見る事とする。
人気のない路地を選んで歩きたいところだが、そこまで地理に明るくはない。
大通を進むより、他になさそうだ。
此方も気配を探りにくくなるが、やむを得まい。
「おい、このガキ! 何処に目をつけてやがる!」
「ガキとは何ですか! ねねは子供ではないのです!」
何やら人だかりが出来ているところに出くわした。
その輪の中で、誰かが言い争いをしているようだ。
しかも、片方の声と口調には聞き覚えがある。
周囲を見渡すが……警備兵の姿は見えぬな。
「済まぬ。道を開けてくれ」
野次馬を掻き分け、前に出る。
……やはり、そうか。
柄の悪そうな男数名と睨み合う、小柄な少女。
紛れもなく、ねねだ。
「おい、ガキ! テメェがぶつかってきたせいで、骨折したじゃねぇか。どうしてくれるんだ?」
「ふざけるななのです。そのぐらいで骨折する訳ないのです」
「あ〜? まだわかっちゃいねぇようだな、コラ?」
「とにかく、落とし前つけて貰おうじゃねぇか。来い!」
そう言って、別の男がねねに近寄る。
「ちんきゅうキーック!」
素早く躱したねねは、男に飛び蹴りを浴びせた。
……が、
「効かねぇなぁ」
あっさりと男に、捕えられてしまった。
「は、放せなのです!」
「うるせぇ! へっへっへ、たっぷり思い知らせてやるぜ」
「そうだな。身体に教え込んでやるぜ」
……下衆共は、絶えぬものだ。
野次馬はただ、戦々恐々とするばかり。
警備兵はどうやら、間に合いそうにもないな。
やむを得まい、見過ごす事が出来よう筈も
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ