第一部
第五章 〜再上洛〜
六十 〜蠢く影〜
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陛下の信頼を傘に着て、専横を振るおうとしている、と」
「確かに聞き捨てならぬな。星、何処でそのような噂を?」
愛紗も話に加わる。
「二人とも、立ったままで話す事もあるまい。それに、雑談で済ます内容でもないであろう」
頷いた二人は、手近の椅子を引き寄せた。
「風。集めた情報にそのような類いの物はあったか?」
「ないですねー。あったら、真っ先にお兄さんに知らせていますから」
「ふむ。それで星、その噂、何処で耳にした?」
「は。城外で陣を張っている間に、その者が曹操軍に出入りしていた行商人が、兵士に話したようです。たまたまその兵の知己が我が軍にいて、それで知らされたとの事です」
「埒もない。あの月殿の何処に、野心があると? 大方、月殿の立身出世を妬んだ輩の流言であろう」
愛紗が吐き捨てるように言う。
……だが、一笑に附すだけで良いのであろうか?
十常侍や何進らはともかく、今の月は紛れもない朝廷の高官。
諸侯の中でも、その地位は群を抜いている。
確かに、愛紗の申す通りに、嫉妬から良からぬ噂を流した輩の仕業という可能性はある。
……だが、この流れは私の知る歴史に何処か、通じているように思えてならぬ。
「他愛もない話と、最初は聞き流していたのですが……やはり、気になりましてな」
「星。その噂を聞いたという兵、探して連れて参れ」
「御意。早い方が良いですな?」
「うむ。素性を確かめねばなるまい、急げ」
「はっ!」
普段は疾風の影に隠れがちだが、星もかなり身軽だ。
「ご主人様。この事、月殿には知らせましょうか?」
「いや、まだ噂の段階だ。真偽を確かめぬうちは耳に入れぬ方が良かろう」
「はっ。ただ、詠には確かめておくべきかと」
愛紗の言う通りだな。
詠ならば不用意に月に知られるような真似もすまい。
「では、ここの方が良かろう。愛紗、頼めるか?」
「お任せ下さい。ねねにも声をかけますか?」
「……いや、良い。事は慎重を要する、ねねでは些か心許ない」
「御意!」
「ああ、待て」
出て行こうとする愛紗を、呼び止めた。
「は。何か?」
「この刻限に詠のみを呼び出してみよ。月が怪しむぞ」
「……確かに。では、明日にしますか?」
「いや、そうもいくまい。早い方が良いのだが」
とは申せ、詠は常に月の傍にいる。
月に悟られずに、詠と話す方法か……。
「風、何か良い手立てはないか?」
「それなら簡単かとー。月さんはお兄さんの娘さんなのですから、理由をつけて連れ出せばどうかと」
「ふむ。それでその間に、という訳か?」
「御意ー」
風は、眠たげな顔のまま、頷く。
「だが、詠に対する説明はどうする?」
「それなら、風と愛紗ちゃんにお任せ下さいですよ」
「な? わ、私もか?」
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