第一部
第五章 〜再上洛〜
六十 〜蠢く影〜
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「寂しい、か。愛紗?」
「せ、星? いつから、そこに?」
「ん? 愛紗が、主に愚痴り始めたあたりからだが?」
にやつきながら、星が入ってきた。
「ぐ、愚痴などではない!」
「おや、誰が聞いても先ほどのは愚痴と思うが。主はどう感じられましたかな?」
「愚痴、とは申さぬが。愛紗が不満を持っているのは良くわかった」
「ご、ご主人様!」
真っ赤になる愛紗。
「ですが、主。不満なのは愛紗だけではありませぬ」
「おうおう、良い事じゃねぇか、姉ちゃん」
不意に机の下から、宝慧が顔を覗かせた。
「……風。何時の間に、そこに忍び込んだ」
「風は何かと一流ですから。このぐらい、朝飯前なのですよ」
だが、私だけならいざ知らず、愛紗まで気付かぬとは。
少なくとも尋常ではないぞ、風。
「でもでもお兄さん、愛紗ちゃんや星ちゃんの言う事、尤もだと思いませんかー?」
不満なのは、風も同様のようだ。
そのようなつもりは無論ないが、確かに結果としてこの三人とは共に過ごす時間が少なくなっていたのも事実。
皆を平等に、と申しておきながらこれでは、何を言われても仕方あるまいな。
「どうやら、私に非があるようだ。済まぬ」
「ご主人様……」
「ふふ、主は素直ですな。決して、上から押さえ込もうとはなさらぬ」
「だからこそ、みんなお兄さんの事が大好きなんですけどねー。ねぇ、愛紗ちゃん?」
「な、何故私に振るのだ!……そもそも、当然ではないか」
相変わらず、賑やかな事だ。
だが、悪くない、何度でもそう思う。
夕方。
さしたる職務もなく、届いた書簡に目を通していた。
ギョウの時は様々な書簡が日々山積していた事もあり、却って拍子抜けする程の量しかないのだが。
件の三人は、何をするという訳ではないのだが、ずっと私の傍から離れようとせぬ。
……流石に、人目も憚らずに纏わり付くような真似はしておらぬが。
とは申せ、仮にも公の場。
用もないのに居座るのも不自然、という事で、愛紗と星は衛兵の如く入口に立ち、風は私の隣で書簡の処理を手伝っていた。
風はともかく、愛紗と星がこのような真似をする必要は無論ないのだが、さりとて他に割り当てる仕事もない。
「お兄さんへの面会申し込みが結構ありますねー」
呆れたような、風の声。
「そのようだ。だが、何らかの企みがあるものが大半だな」
「でしょうねー。お兄さんは諸侯の間でも目立っていますし。月さんとの事もありますから、誼を通じておいて損はない、そんなところかと」
人付き合いを避ける訳ではないが、少々煩わしいのは事実。
「ところで主。少々、不穏な噂を耳にしたのですが」
立ち番に飽いたのか、星が口を開いた。
「不穏な噂だと?」
「はっ。その月殿の事ですが……
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