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メフィストの杖〜願叶師・鈴野夜雄弥
第一話
V
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そうして二人は男達を後に、その奥にある部屋へと入った。
 そこは光すら入らない小部屋だった。闇と血の臭いが支配していた中でも、そこに誰かがいる気配はする。
「谷山だな?」
「だ…だれ…だ…?」
 返ってきた声は弱々しく、その声はまるで死に逝く者のそれだった。彼の息はもう長くない…二人には直ぐに分かっていたことであった。
「さて…お前は吉崎由利香を愛しているか?」
「あたり…まえ…だ…。」
「彼女のためだったら…死ねるか?」
「もち…ろ…んだ…。」
「では最後に問おう。ここで生き延びたなら、彼女を一生涯守り抜ける自信はあるかい?」
「神に…ちかっ…て…。」
「そうか。では、私は君を助けよう。」
 ロレはそう言うや、彼に歩み寄ってその身に触れた。すると、彼の傷は瞬く間に塞がってゆき、折れていた骨さえ修復された。
 まるで奇跡だが、これはメフィストの…悪魔の力を借りたものだ。
「私は…。」
 今まで痛みのために朦朧としていた頭が、痛みが消えたためにはっきりしてきた。そして暗闇の中でも体を起こすと、前に居るであろう誰かへと話し掛けた。
「なぜ…助けたんです?」
「君に罪が無かったからだ。まぁ、婚姻を結ばずして性交するのは姦淫の罪にあたるが、そこは大目に見るとしよう。」
「貴方は…天使ですか?」
 谷山のその問い掛けに、二人はフッと笑った。
「いや、真逆だ。」
「…では、悪魔?」
「まぁ、そうだな。」
「では、私は地獄へ?」
 谷山の声に不安が混じる。まさか悪魔に助けられたとは思いもよらなかったからだ。
 しかし、ロレはそんな谷山に優しく語りかけた。
「いや、今後の生き方でそうはならない。今までの人生にもさしたる罪はない。この程度なら、きっと天の王も許すだろうさ。」
「では…貴方は…」
 谷山がそう口にした刹那、辺りに蒼白い焔が揺らめいた。
「私はロレ。そしてこっちがメフィストだよ。」
「メフィストって…あの在りし日へ還ることを願う者…。」
 谷山は赤毛の男をまじまじと見た。彼の知る伝承では、常に老人の姿で登場していたが、目の前にいるメフィストは…二十代後半だったからだ。
「良く知っていたね。でも、ここであったことは忘れてもらう。君が次に目覚めた時、真に愛する者と共にある。さぁ、眠れ…。」
 ロレがそう言うや谷山は何か言おうとしたが、それを口にする前に床に倒れ、そしてそのまま深い眠りへと誘われのだった。

「契約だ。彼女を…愛する者を大切にしろよ…。」





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