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メフィストの杖〜願叶師・鈴野夜雄弥
第一話
V
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倒れた風にしか見えなかった。メフィストが何かをして倒れ…とは誰一人感じていないのだ。
「てめぇ…一体何しやがった…。」
 だが、男達は目の前の赤毛の男が何かしたに違いない…そう感じていた。そうでなくば、大の男が白眼を剥いて倒れる訳がない…と。
 男達の殺気を感じ、メフィストは何とはないと言った顔付きで言った。
「ただ気絶させただけだ。それとも…死にたいのかい?」
 メフィストの表情が変化した。そして、彼から殺気どころではない、もっと強い何かが感じられ、男達はその得体の知れない何かにたじろいだ。
 目の前に立つ赤毛の男は…自分等の手に負えない…そう直感していた。
 しかし…男達はここを引くわけには行かなかった。
「どうする?やるのやらないの?まぁ、遊んであげても良いんだけど。」
 そう言ったメフィストの表情は、いつの間にか狂喜に満ちた笑みへと変わっていた。
 それを見た男達は、いよいよ自分等の置かれた状況を呪い始めた。
 この赤毛の男と戦っても、ここを逃げ出して雇い主に見つかっても…どのみち殺されるんじゃないかと…。
 だが、彼らに考える余裕など無かった。
「それじゃ…行くよ?」
 その一言でメフィストは動いた。彼の前には罪深き穢れた人間しかいない。故に、彼は男達に容赦する気は更々無かった。
「グフッ…!」
 男達は何が起きたかさえ分からず、次々と床に倒れて行く。ある者は腕を有り得ない方向へ曲げられ、ある者は肋を折られ、またある者は足を砕かれた。
 しかし、メフィストにとってこんなことは大したことではなかった。故に、然して時間も掛からずに、男達は全員床に転がることになったのだ。
「さて、仕上げの時間だな。」
 さも嬉しそうに言うメフィストに、男達は自らの最期を悟った。激痛にもがき、それによって叫ぶことさえ儘ならない男達は、早く楽にしてほしいとさえ思った。
 だが、そこにもう一人の男が現れ、この状況を変えた。
「メフィスト、もう終わったよ。契約により、彼はもう解放された。」
「もう終わったのかよ…。」
「残念そうだな。」
 彼はそう言うや、倒れて呻く男の一人に顔を近付けて問った。
「お前達…助かりたいか?」
 その言葉に、男は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を上げて必死で首を縦に振ったため、彼は徐に立ち上がって言った。
「それでは…眠れ。お前達は今のことを忘れ、目覚めし時には在るべき場所に在るだろう。」
 彼がそう言い切ると、男達は一人、また一人と安らかな眠りへと落ちていった。
 それを見たメフィストは、小さな溜め息を洩らして男へと言った。
「ロレ、これで良かったのか?」
「良いんだ。どうせ皆いつかは死ぬ。たとえ滅びに至るとしても、短い命だとしても…。」
 男…ロレはそう囁く様にメフィストへ言った。
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