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メフィストの杖〜願叶師・鈴野夜雄弥
第一話
V
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出さなくてはならないと思いはしたが、彼の体は恐怖で強張って動こうとはしてくれない。
 そんな荘一郎に、青年は軽く笑みを見せて少しずつ近付いてきた。

- 来るな! -

 荘一郎はもう声を出すことも儘ならず、胸中で叫ぶ。そして考える。なぜ自分がこんな得体の知れない怪物に目を付けられたのかを…。
「お前、娘がいるな?」
 青年は荘一郎の考えを読んでか、いきなり話を始めた。
「お前、その娘を真に大切だと思っているのか?」
「当たり前だ!」
 荘一郎はなけなしの勇気を振り絞って返したが、その返答に青年の笑みがフッと消えた。
「平然と嘘を吐く輩…お前は娘を道具にしようと企んでいたではないか。娘を権力ある政治家の息子へと嫁がせる…それがお前の目的だったのだろ?」
「一体…何を…」
「全て知っているぞ。だから腹の子を堕ろさせ、何もなかったかの様に振る舞わせたかったのだろ?腹の子とその父を殺せば…めでたしめでたし…か?」
 その声は、まるで鋭い刃物で切りつけるようだった。
 荘一郎は、もう何も言えない。目の前にいるこの青年は…本当に全てを、自分の心の中でさえ知っているのだ。
 彼はその恐ろしさに身動き一つ取れず、それどころか気絶することさえ出来ずにいた。
 そんな荘一郎に、青年は再び口を開いた。
「お前は私に問ったな?私が誰か…と。私の名はミヒャエル・クリストフ・ロレ。お前達は私をこう呼ぶのだろ?"メフィストの杖"…とな。」
 それを聞くや、荘一郎の目は今まで以上に見開かれた。彼は震えによって歯も噛み合わずにいたが、やっとのことでそれを口にした。
「そんな…あれは…ただの都市伝説のはず…。」
「陳腐だな。お前の様な者が上に立っていようとは…。」
 そして青年…ロレは荘一郎を見下すようにして立つや、彼に向かって言った。
「お前の娘と谷山は私が貰って行く。もし、今後この二人に手を出す様なら…お前は違えることなく地獄へと堕ちる。」
 そう言われた荘一郎が首を縦に振って了承の意志を示すと、ロレは笑みを見せて言った。
「これは契約だ。」
 ロレがそう言ったかと思うと、荘一郎の意識は闇の中へと落ちていったのだった。

 その頃、とある吉崎の会社の一角にメフィストが姿を見せていた。
「そこの兄ちゃん、そこ退いて。」
「お前…一体どこから侵入した!」
「どっからだって良いだろ?」
 メフィストはそう面倒くさそうに言うや、男を瞬時に昏倒させた。すると、その音を聞き付けて人が集まり、あっと言う間にメフィストは男達に囲まれてしまった。
「やれやれ…人間ってやつは愚かだねぇ。」
「はぁ?お前、何寝惚けたこと…」
 メフィストの目の前に立っていた男は、その言葉を最後まで言い終わらないうちに倒れた。
 周囲には、男が一人で勝手に
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