第一部
第五章 〜再上洛〜
五十八 〜交錯する思惑〜
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後になるであろうな。
「歳っち。ちょっと、ええか?」
霞が、顔を覗かせた。
「どうした?」
「なんや、目が冴えてしもうてな。一杯、付き合ってくれへん?」
と、徳利を掲げて見せた。
「構わぬが、私はもうかなり過ごしてきたぞ?」
「せやから、一杯だけでええねん。な?」
「一杯だけだぞ。お前に付き合っていたら、明日に差し障る」
「おおきに」
嬉しげに笑いながら、茶碗に酒を注ぐ霞。
「ほな、乾杯」
「うむ」
カチリと茶碗をぶつけ合い、そのまま一口喉に流し込んだ。
「蘇双の酒だな」
「ウチ、これ大のお気に入りやねん。洛陽でもな、ごっつ評判ええんやで?」
そう言いながら、水の如く一気に呷った。
「あ〜、ホンマこれええわ」
「相変わらずの飲みっぷりだな。尤も、その方が霞らしいが」
「これがウチや。歳っちかてわかっとるやろ?」
「ああ」
霞に合わせては本当に潰れる故、舐めるように少しずつ、嗜むことにする。
「歳っち」
「何だ?」
「……おおきに」
「礼ならさっき聞いたぞ?」
「あ、ちゃうねん。白兎の事や」
茶碗を満たし、またぐいぐいと呷る霞。
「歳っちんとこで白兎を見た時は、ホンマ驚いたわ」
「私も、月の妹と存じていれば、別のやりようがあったのだが。よもや、な」
「しゃあない、歳っちと月が一緒におる時に、白兎はずっと何進はんとこやったからな。疾風(徐晃)なら面識あるかも知れへんと思っとったけど、どうやらそれもないみたいやし」
「しかし、よく董旻を連れ出せたものだな?」
私は、ずっと気になっていた事を問うてみた。
「ああ。星にな、訳を話したんや。そしたら、歳っちならわかってくれるやろ、て」
「……そうか」
「星を責めんといてや。これは、ウチの責任やからな」
「責任? そのようなもの、問うつもりは毛頭ない。ただ、それならば最初からそう申せば良かったがな」
「……かも知れへん。せやけど、白兎の顔を見て、ウチ……」
「もう過ぎた事、今更とやかく申すまい」
「…………」
霞は、黙って席を立った。
「如何した?」
「……歳っち。隣、ええか?」
「隣?」
「せや」
返事を待たず、私の隣に腰掛ける霞。
長椅子のような幅がある故、無理はないのだが、それでも密着する格好になる。
「霞、酔ったのではないか?」
「ああ、酔ったわ。……歳っちに」
「意味がわからぬぞ。もう、それぐらいにしておくが良い」
徳利を取り上げようとした手に、霞の手が重なる。
「……稟、風、愛紗、疾風、星。それに彩(張コウ)もおるんやな」
「……霞。何が言いたい」
「歳っちが、格好ええ事はわかっとる。腕も立つし、度胸もある。それに、優しい。こないな男、他におらへん」
霞が、私の腕に抱き付いてきた
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