第一部
第五章 〜再上洛〜
五十八 〜交錯する思惑〜
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公がそれを望まぬのもわかっているつもりだ。だから明日、妹に会って諭すつもりだ」
「何進殿……。何故、そこまでなされるのです?」
「そうだな。俺みたいな凡庸な大将軍に仕えてくれる白兎に、これ以上辛い目に遭わせたくない。それでは理由にならんか?」
「…………」
「それに、貴公は月の父親。つまり、白兎にしても父同然ではないか。俺は、それを犠牲にしてまで、くだらない権力争いを見たくない」
そして、何進はふう、と息を吐く。
「もし、妹がそれでも聞き入れぬのなら。……俺は、大将軍の職を辞そうと思う」
「え?」
月が、驚きの声を上げる。
……いや、霞も。
そして、臥せっていた董旻も、跳ね起きた。
「何進殿。それが何を意味するのか、おわかりなのでしょうな?」
「ああ。けどな土方、俺はもう疲れた。やはり、俺は肉屋の主人が丁度いいみたいだ」
思いつきで発した言葉ではない、そんな重みが感じられた。
恐らく、悩みに悩み抜いて出した結論なのだろう。
「十常侍が、牙を剥きますぞ?」
「だろうな。だが、官職だけではない。全てを返上し、平民に身分を落とせばどうだ? 奴らが欲しているのは権力、それを全て呉れてやれば、俺を殺す意味がなくなる」
「何皇后や陛下は如何なさるおつもりか?」
「……それも、考えてあるさ」
何進は、不敵に笑う。
……凡庸どころか、実に大胆ではないか。
策を授けた者が影にいるのやも知れぬが、何進自身に覚悟がなければ、こうも思い切れまい。
十常侍共は、何進の真の姿を恐らくは知るまい。
「白兎」
「…………」
未だ会話の出来ぬ董旻は、何進の呼びかけに頷いた。
その眼は、潤んでいる。
「俺のような男に、ここまで従ってくれた事、感謝する。もし、俺に何かあったら、土方を頼れ」
ぶんぶんと、董旻は頭を振る。
子供が、嫌々をするかの如く。
「わかってくれ、白兎。俺はこの通り出自も卑しい凡夫。だがお前は、今日まで懸命に仕えてくれた。……こんな目に遭わせてしまうつもりはなかった、許せ」
……つくづく、惜しい男だ。
このような醜悪極まりない権力闘争と無縁の、何処かの諸侯に仕える一武将であったなら。
今少し、違った形で後世に名を留めたやも知れぬな。
「何進殿。今宵は月を、董旻の傍にいさせてやりたいと存じます」
「おお、そうだな。では月、後は任せるぞ」
「は、はい。……ありがとうございます、何進様、お父様」
董旻も、私に向けて目礼をしてきた。
少なくとも、嫌われてはいないようだな。
「霞。我らは外すと致そう」
「せやな」
霞の顔には、安堵の色が漂っていた。
何進の計らいで、部屋が用意された。
この屋敷に泊まるのは、これで二度目となる。
……恐らく、今宵が最
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