第一部
第五章 〜再上洛〜
五十八 〜交錯する思惑〜
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す」
「なるほどな。確かに、そうかも知れぬな」
「ただ、少し思い詰め過ぎるところはありますが。真面目ですからね、閃嘩さんは」
「ああ。……ところでそこの者、出て参れ」
振り向く事なく、私は背後の気配に声をかける。
「…………」
返事はないが、影はそのまま、姿を見せた。
そして、小さく会釈し、歩き出した。
……ふむ、私か月、どちらかに用があるのだな。
少なくとも、敵意は感じられぬが。
私は月の手を取ると、影に従って歩き出した。
やがて、影は大きな屋敷の前で、どこへともなく消えた。
正門ではなく、裏門のようだが、如何に洛陽とは申せ、この規模の屋敷ともなるとそう多くはないであろう。
「ここは……見覚えがあるな」
「はい。大将軍何進様のお屋敷です」
小声で、月が答えた。
と、木戸がかすかに開いているのが眼に入った。
ならば、招きに応じるとするか。
辺りを見回し、監視の眼がない事を確かめてから、私は木戸を押した。
中には、よく見知った顔が待ち構えていた。
「霞さん?」
「何故、お前が此処にいる」
「……とりあえず、中に来てくれへんか」
「良かろう。月も、良いな?」
「……はい」
屋敷の一室。
そこに待っていたのは、何進と、もう一人。
我が陣に忍び込もうとした少女か。
「……え。そ、そんな……」
月が、やはり顔色を変え、少女に駆け寄った。
「白兎ちゃん……どうして」
「…………」
白兎と呼ばれた少女は、黙って目を逸らす。
「月。顔見知り、いやそれ以上の関係の者だな?」
「……そうです。この娘は董旻、私の妹です」
成る程な。
道理で、霞が狼狽した訳だ。
「……済まん。土方、月」
何進が、私と月に向けて、頭を下げる。
「どういう事か、聞かせていただけますな?」
「うむ。白兎は……俺の妹の命で、貴公の陣に忍び込んだのだ」
何進の妹と言えば、何皇后しかおるまい。
「もともと、白兎ちゃんは何進様にお仕えしていたんです」
「せやけど、月の妹やろ? 当然、ウチらとも無関係やないっちゅう訳や」
「二人の言う通りだ。だが、俺に仕える以上、妹とも接点が生じる。……そして、白兎は月に似て、とても義理堅く、頼まれた事を断れない性格なのだ」
「…………」
「そして、知っての通りだろうが、今あれは、とても焦っているのだ」
「焦っている、と? しかし今生陛下のご生母ですぞ?」
「確かにそうだ。だが、指をくわえてみている十常侍ではない、あれを陥れるべく、暗躍を続けているようだ」
「……わかりませぬな。皇后様には、貴殿もついておられる。それに、陛下には我ら西園八校尉が親衛隊として配属されますぞ?」
すると、何進は苦々しげな顔になった。
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