暁 〜小説投稿サイト〜
至誠一貫
第一部
第五章 〜再上洛〜
五十八 〜交錯する思惑〜
[2/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
す」
「なるほどな。確かに、そうかも知れぬな」
「ただ、少し思い詰め過ぎるところはありますが。真面目ですからね、閃嘩さんは」
「ああ。……ところでそこの者、出て参れ」
 振り向く事なく、私は背後の気配に声をかける。
「…………」
 返事はないが、影はそのまま、姿を見せた。
 そして、小さく会釈し、歩き出した。
 ……ふむ、私か月、どちらかに用があるのだな。
 少なくとも、敵意は感じられぬが。
 私は月の手を取ると、影に従って歩き出した。

 やがて、影は大きな屋敷の前で、どこへともなく消えた。
 正門ではなく、裏門のようだが、如何に洛陽とは申せ、この規模の屋敷ともなるとそう多くはないであろう。
「ここは……見覚えがあるな」
「はい。大将軍何進様のお屋敷です」
 小声で、月が答えた。
 と、木戸がかすかに開いているのが眼に入った。
 ならば、招きに応じるとするか。
 辺りを見回し、監視の眼がない事を確かめてから、私は木戸を押した。
 中には、よく見知った顔が待ち構えていた。
「霞さん?」
「何故、お前が此処にいる」
「……とりあえず、中に来てくれへんか」
「良かろう。月も、良いな?」
「……はい」

 屋敷の一室。
 そこに待っていたのは、何進と、もう一人。
 我が陣に忍び込もうとした少女か。
「……え。そ、そんな……」
 月が、やはり顔色を変え、少女に駆け寄った。
白兎(はくと)ちゃん……どうして」
「…………」
 白兎と呼ばれた少女は、黙って目を逸らす。
「月。顔見知り、いやそれ以上の関係の者だな?」
「……そうです。この娘は董旻、私の妹です」
 成る程な。
 道理で、霞が狼狽した訳だ。
「……済まん。土方、月」
 何進が、私と月に向けて、頭を下げる。
「どういう事か、聞かせていただけますな?」
「うむ。白兎は……俺の妹の命で、貴公の陣に忍び込んだのだ」
 何進の妹と言えば、何皇后しかおるまい。
「もともと、白兎ちゃんは何進様にお仕えしていたんです」
「せやけど、月の妹やろ? 当然、ウチらとも無関係やないっちゅう訳や」
「二人の言う通りだ。だが、俺に仕える以上、妹とも接点が生じる。……そして、白兎は月に似て、とても義理堅く、頼まれた事を断れない性格なのだ」
「…………」
「そして、知っての通りだろうが、今あれは、とても焦っているのだ」
「焦っている、と? しかし今生陛下のご生母ですぞ?」
「確かにそうだ。だが、指をくわえてみている十常侍ではない、あれを陥れるべく、暗躍を続けているようだ」
「……わかりませぬな。皇后様には、貴殿もついておられる。それに、陛下には我ら西園八校尉が親衛隊として配属されますぞ?」
 すると、何進は苦々しげな顔になった。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ