二十六 手向けの涙雨
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るアスマの隣で、カカシはなぜか密かな不安を覚えた。
月光ハヤテの生還への安堵と、何か大事なものを無くしてしまうような危惧が綯い交ぜになった表情を浮かべる。
(ハヤテの帰還と引き換えに、何か…大切なものを失ってしまうような…)
曇天を仰ぐ。教え子の瞳にそっくりな青が一点も見当たらぬ事にカカシは眉を曇らせた。
雨はまだ、止みそうにない。
天から降る涙は人々の涙を洗い流し。そして益々心を沈ませる。
おぼろげに浮かぶ街並みを彼は静かに俯瞰していた。
生まれ育った里を一望できる火影岩。
若かりし頃の三代目の顔岩の上で、一人眼下を見下ろす。
突き抜ける空にも深海の底にも似た紺碧の瞳には、なんの感情も映っていない。
ただ、酷く冷めた目付きで里を見遣っていた子どもは、ふと空を見上げる。
多分に湿気を孕んだ風が、月色の金糸の髪を攫い、その秀麗な容貌を晒していた。
「…ジジイが命を懸けて守る価値が、この里に本当にあったんだろうか…」
ふと呟いた言葉はむなしく雨音に掻き消される。耳朶にいつまでも残る火影の声が脳裏に蘇った。
『ただ、自由に在れ』
自分の信じる道を進め。自由に生きろ。
繰り返し繰り返し、何度も頭の中で唱え続けられる遺言。
その言い残された一言に戸惑うナルトの瞳に、涙の如き水滴が映り込んだ。
ナルトの背中を押すように降り続ける、手向けの涙雨。
「ナルト」
不意に子どもの背後から声がかけられた。唯一背中をとられても安心できる人間。
彼が傍に来ていることはとうに知っていたが、信頼感ゆえにそこで初めてナルトは振り返った。
「…よかったんか?」
ナルトの意識が向いていることを察し、横島は最後の確認をする。彼のさりげない心遣いがナルトの心を静かに打った。
「今ならまだ、間に合うけど…」
「…今更、だな………」
自嘲する。横島の気遣わしげな視線を受け流し、ナルトは今一度里を見渡した。再度口を開く。
「未練は無い」
未練など、あるはずもない。
過去に囚われたまま、汚泥のような暗い心の膿を内包する里。
唯一泥中の蓮であった子が消えれば、綻び始めた里はいずれ破滅を迎える。
僅かばかりの心残りを気のせいだと誤魔化して、ナルトは瞳を閉じた。
一度決めた事なのだ。もう後戻りは出来ない。
その小柄な背中を無言で見つめていた横島は、横から服の裾を引っ張られ、我に返った。
破璃が何かを口に咥えている。それを受け取り、瞠目する横島に向かって、ナルトが振り向かずに答えた。
「ハヤテの置き土産だ。おそらく記憶を消される事を前以て推測していたようだな。お前宛だ」
一振りの刀。普通の刀よりは短いが、それでもかなりの名刀
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