二十五 永訣
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そんな錯覚に陥り、火影は自嘲染みた笑みを口許に湛える。
しかしその笑みは、愛し子のゆらりと零れ落ちそうな瞳と搗ち合った途端、掻き消えた。困ったように目尻を下げながら、火影は再び手を伸ばそうと力を入れる。
細い枯れ枝と似通った己の腕を、懸命に動かして。
翳りの入る蒼天。揺らぐ二つの曇り空から、雲霞を一切取っ払ってやろうと。老いた腕は、ただそれだけの意志を持つ。
頼りなく、しかし確固とした強い意志。
けれどそれすら叶わずに。老いたその手は。
ゆっくりと空を切って。
地に、墜ちた。
空振りしたその手をぎゅっと握りしめる。ぐったりと力の無いそれは、もはや物体と化していた。
冷たい。その冷たさが否応なく、ナルトに真実を突き付ける。
先ほどまで必死にナルトの幸せだけを望んでいた三代目火影が、老人が、もはやこの世の者ではないことを。
横たわる火影の身体からすうっとナニカが浮き出ていく。霊能力のある横島だからこそ視えるソレは、あの人の良さそうな笑みを浮かべた。そして横島に向かって、幾度も切望の言葉を口にする。
『……この子の傍で、見守ってやってくれんか……』
その声を聞き入れた横島は、必死に目頭を押さえた。そうして、僅かに、しかし確かにソレに向かって頷く。
ソレは酷く驚いた顔をしたが、すぐにいつもの穏和な表情で、横島と、顔を伏せたまま動かないナルトを交互に見つめると。
空に溶けていった……………………。
保護者であったその亡骸を、未だ片膝立ちでナルトは見つめている。一つと一人の、その一歩後ろで横島は黙って立っていた。
ナルトには、哀しみに咽ぶ様子も嗚咽を漏らすことも動揺すら無い。その素っ気ない態度を見た者は皆が皆、なんて非人情で冷酷な子どもだと責めたてるだろう。
しかしながら横島には、彼が感情の全てを削ぎ落すことで平静を装っているように見えた。
いっそ無情にも見えるナルトの、背中が全てを物語っている。
十三年間生き永らえたその小さな背中は、キレイで済むはずのない大人の考えも汚い世界も世の理もその裏も、そして人の生死も、全てを悟っているのだ。
常日頃なら簡単なはずの、感情を削ぎ落すその行為。けれどやはり今は、流石の彼も難しいらしい。
顔を伏せるナルトの蒼い双眸は、微かに蠢く金の睫毛にて隠れている。しかし一文字にきつく結ばれた口許から、彼の感情が見て取れた。その唇からは一筋の血が滴っている。
横島に、ナルトの表情は窺えない。けれどきっと見られたくなどないだろうと、横島もまた、横たわる亡骸をじっと見下ろしていた。
その場に流れる時は、酷く重い。
はたとナルトが顔を上げた。その所作は、俊敏な
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