二十五 永訣
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危地を知った彼は、急ぎそちらへ足を向けた。
横島と出会う前のナルトならば、迷わず火影の命を優先したであろう。横島とハヤテを見殺しにして火影の許へ向かっていただろう。
だが今のナルトはどうしても、横島の危機を見て見ぬふりをする事が出来なかったのだった。
それに【屍鬼封尽】の術を使ったのならば、ナルトにも横島にもどうしようもない。あの術は一度発動すれば死神に魂を譲らなければならない。
契約したからには最後、どう足掻いても死から免れないのだ。
今はナルトの介入によって生き永らえているが、そう長くはもたないだろう。たとえ横島が文珠を使い、傷を癒したところで彼の死は確実なもの。三代目火影の運命は『死』だと決定事項である。
ナルトの影分身が死体に化けているのも、火影自身がそう望んだためだ。未練がましく生にしがみつく里長を皆に見せたくないというのもあるが、なによりナルトに伝えたい言葉が彼にはあった。
「月代…いや、ナルトよ……」
誰よりも強いナルトが木ノ葉の里での酷い処遇に耐えてきたのは自分のせいではないか、と火影は長年思い煩っていた。
彼を木ノ葉に繋ぐ鎖こそ、己が身勝手に発した言葉だったのではないか、と。
それは自分がナルトの幼き頃に言い聞かせた―――――「ただ、強く在れ」という言霊。
自身が生きている限り、この子は自由にはなれない。
だからこそ火影は生還を望んでいない。死ぬ間際だからこそ出来る事。
火影である前に子どもの幸せを願う老人は、最後の最後でナルトと木ノ葉の里を繋ぐ鎖を断ち切りたかった。
「ナルト…前言撤回、じゃ……」
片膝立ちで覗き込むナルトの耳に、火影の掠れた声が届く。ぼそぼそと呟く火影の言葉を正しく聞き取ろうと、ナルトが彼の口元に耳を寄せた。
「」
か細くしかし切望が込められたその言葉を耳にした瞬間、動揺する蒼の双眸。しかしそれに取り合わず、火影はもう一度その言葉を反芻する。
「ただ、自由に在れ」
木ノ葉の里。九尾の惨劇に囚われ続けている里人。里と里人を背負う義務を持つ火影。
それら柵(しがらみ)を全て容赦なく捨てろと。己に遠慮などせず切り捨て、自由に生きてくれと。
だからこそ、幼き時刷り込んでしまった「ただ、強く在れ」という言葉を取り下げる。
翳む眼を必死で凝らし、火影は虚空へと手を伸ばした。伸ばされた片手が、ナルトの髪にそっと触れる。その一房をついっと掴むと、月色の金糸がさらさらと靡いた。
それはまるで、水面に映る決して捉えられない月のように。それらは火影の無骨な手…その指の間から零れ落ち、流れていく。
「猿が月を捉えようと木に登るが落ちて死ぬ、か…。『猿猴促月(えんこうそくげつ)』とはよく言ったものじゃわい…」
月に、逃げられたような。
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