第一部
第五章 〜再上洛〜
五十六 〜洛陽城外にて〜
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んだようだが。何用か?」
「はっ。土方様に、さる御方がお会いになりたい、と仰せです」
曲者は、面体を隠したままそう告げた。
「正面切って堂々と……という訳ではないのだな」
「そうでなければ、このような危うい真似はしません」
「うむ。それで、その御方とは?」
「……申し訳ありませんが、この場で申し上げる訳には参りません。ご同行願えないでしょうか?」
「素性は明かせぬ、それはやむを得ぬとして。何用なのだ?」
「……それも、私の口からは」
少なくとも、華琳や袁紹ではあるまい。
何進だとしても、素性を隠す必要はない。
ましてや、月や睡蓮がこのような真似をするなどあり得ぬ。
不審な点が多過ぎるが、それにしては目の前の密使が理解出来ぬ。
何やら企みがあるのであれば、此処まで忍び込める程の者を失いかねぬ手段は採るまい。
私が斬らぬであろう事を見越している……それは勘ぐり過ぎか。
「歳三殿。如何なさいますか?」
「……とりあえず、剣を収めよ。少なくとも、私を害するつもりはないようだ」
「……は」
私も、兼定を鞘に戻す。
「今宵は見逃してつかわす。戻ってお前の主に伝えるが良い」
「…………」
「私は逃げも隠れもせぬが、用向きがあるなら正々堂々と来られよ、とな」
「……では」
「使者の務めを果たせぬ事にはなるが、不確かな理由だけでこの時に陣を抜け出す訳にはいかぬ。一度、出直すが良い」
曲者の眼に、無念が浮かんだ。
む、いかん。
私は、咄嗟に当て身を食らわせる。
崩れ落ちた女子の口から、血が滲んだ。
「急ぎ、手当を。何としても死なせるな」
「御意!」
よもや、舌を噛み切ろうとは。
私は、面体を覆う布を取り払ってみた。
まだ年若く、整った顔立ちをしている。
事情もわからぬ中、おめおめと死なせる訳にはいかぬ。
「医者によれば、命には別状なさそうとの事です」
「うむ、ご苦労」
騒ぎも静まり、再び皆が集まった。
「それにしても、何者でしょうな、主?」
「わからぬが、覚えがない事だけは確かだ」
「そうですね。歳三様をご存じの方であれば、あのような真似を好まない事も承知の筈です」
「となると、かなり絞り込めそうですけどねー」
「ともあれ、目を離すな。あのまま逃せば、また自害するやも知れぬ」
「御意!」
皆が頷いたのを確かめ、私は腰を上げる。
「皆、ご苦労であった。休むが良い」
「では、私が主の傍に」
「ま、待て星! もう曲者は捕らえたのだぞ?」
「愛紗よ。ならばこそ、ではないか。そうですな、主?」
「星、抜け駆けは許せぬ。わ、私とて、歳三殿と共に!」
「ではでは、間を取ってここは風がですねー」
「ふ
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