第一部
第五章 〜再上洛〜
五十六 〜洛陽城外にて〜
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華琳さんの性格からして、土方さん程の人物に目をつけるのは当然ですけど」
「だが、私は今のところ、誰かの下につくつもりはない。貴殿にも断りを入れた通りだ」
「……あの事は、今でも後悔していますわ。土方さんのような方を、あのようなやり方で傘下に加えるなど、無理に決まっていますのに」
そう言って、袁紹は息を吐く。
「……わたくしが仮に土方さんの立場だったとしても、わたくしにも斗誌さんや猪々子さん達がいますもの。上に立つ者として、ついてきて下さる皆さんの事をもっと考えるべきでしたわ」
以前の袁紹ならば、正体を疑いかねぬ言葉。
上に立つ者として、あるべき方向に向かっているのであろう。
……だが、言葉にするのは容易くとも、事を為すのはなかなかに困難を伴う。
それに、人は良きところはなかなかに認めぬが、悪しきところは忘れぬもの。
かつての傲岸不遜な様を見ている者に、その認識を改めさせるなど、長い刻が必要であろう。
風と何を企んだのかはわからぬが、しつこく詮索するのも無粋であろう。
夜更けを迎えた。
星らが何としても傍に、と言い張った。
それを件の者の正体を見定めるまでは、私は一人でいるべきと諭した。
今宵現れてくれると良いのだが、そうでなければ長期戦も覚悟せねばなるまい。
大事の前の小事、と割り切るには、何故か引っ掛かりを禁じ得ぬ。
「……歳三殿」
「疾風か。来たか?」
「はっ。では、手筈通りに」
「うむ、頼んだぞ」
どうやら、要らぬ懸念であったか。
……さて、どのような者が姿を見せるのか。
私は素知らぬ顔で、手元の書に目を落とした。
そして、
「おのれ! 何処へ行った!」
「関羽様、見失いました」
「ええい、探せ! 鈴々、向こうを頼む」
「合点なのだ!」
愛紗の怒声が響く。
ふっ、なかなか皆、芝居が堂に入ってるではないか。
む、かすかだが気配を感じる。
どうやら、此方を窺っているようだな。
ならば、私も少しばかり、道化を演じてみせるか。
頬杖をつき、舟を漕ぐ真似をしてみる。
……それに安堵したか、気配がじりじりと寄ってくる。
少なくとも殺気は感じられぬが、無論油断は出来ぬ。
息を殺してはいるが、この距離では流石に気配を隠しきれるものではない。
一呼吸置いてから、兼定を抜き、気配に向けて突き付けた。
同時に、疾風が天幕に飛び込んでくる。
「動くな」
私は、ゆっくりと顔を上げる。
布で口や鼻を覆い、兜を被っているのでしかとはわからぬが……やはり、女子か。
「何者か?」
「……ふう、やはり罠でしたか」
存外、幼き声のようだ。
「私と承知の上で、ここまで忍び込
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