縋り付きし自由に
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」
「我ら曹操軍は“袁麗羽”を輩と認め、蔑むことも隷属させることも許さず、その敵を覇王の敵として討伐せん!」
大声で語られる言の葉の列に、民達は驚愕を隠せない。
真名が大切だからこそ、この有り得ない事態に困惑と驚愕が綯い交ぜになって心をかき乱す。
ざわめくその場は落ち着きが無く、ただ、それを鎮めようとは麗羽もしなかった。
受け入れるには時間が掛かる。そんなことは分かり切っていたのだから……彼女には勇気ある者が出てくることを待つしかない。
そんな中、ぐ……と拳を握った少女が一人。
何処にでもいる町娘の童が、いつも高笑いを上げてこの街を回っていた麗羽の前に歩いて行った。
次第に落ち着いて行く民の声。視線はその少女へと向けられていく。
おそるおそる、といった様子で、その少女は麗羽を見上げた。
「……れ……れ、“麗羽さま”……あ、脚、だいじょーぶ?」
おずおずとたどたどしい声で紡がれた言葉は……心配の念。
傷つくはずのなかった彼女に、少女はそんな声を掛けた。
カタリ……と麗羽は杖を取り、覚束ない足取りで車を降りて行く。簡易の歩行補助絡繰りを取りつけた脚と、動かない片足を引き摺って、ギシギシと、ゆっくりと歩いて行く。
いつかこけてしまいそうなその姿は痛々しく、とても見れたモノではなかった。
少女の前まで辿り着いた麗羽は……ふわり、と膝を付いた。
「心配なさってくれてありがとうございます。この通りわたくしはちゃんと歩けますわ。勇気あるお嬢さんに感謝を、そしてあなたが幸せに暮らす世に平穏のあらんことを」
そっと腕を取って傅く様は、主に忠を誓う臣下の如く。
しかして麗しさは衰えず増すばかり。優雅さは失われず輝いていた。
その優しい微笑みに、少女は心配そうな視線を向けて眉を寄せたが、直ぐにひまわりのような笑顔を見せた。
「また街に来ていっぱい笑ってね、麗羽さま」
一寸、麗羽の思考が固まった。
それはただの仮面を被った自分の行いだったはずで、ただの体面としての手段。
それでも民達の中には、この少女のように……また、と願ってくれている者が居る。それだけでまた救われた気がした。
袁紹の欠片が、袁麗羽に受け継がれる。昔の自分はこの街にも居るのだと、存在証明は確かにあった。
潤みそうになる瞳を誤魔化すように、麗羽は少しだけ目を瞑り、すっくと立ち上がってから……優雅に手を片頬に添える。
「当然ですわよ、お嬢さん。わたくしはあなたの為の袁麗羽、民の為の袁麗羽。あなた方と共に笑う事が、わたくしの歓びなのですから」
「ふふっ、じゃあわたしも麗羽さまのマネしていーい?」
「ええ、ええ。なんならご一緒に回りますか?」
「……いいの?」
「今日はさす
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