第一部
第五章 〜再上洛〜
五十五 〜覇王の思惑〜
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華琳より宛がわれた天幕に入り、華琳から渡された竹簡を広げてみた。
ふむ、何処かの街の地図のようだが。
「区画が計画的に整理されていますね」
「碁盤の目だな。京の街を見ているようだ」
「京、ですか?」
「うむ。私の国で、天皇陛下……皇帝陛下がおわした地だ。唐の都を手本にした、と聞く故、似ていて当然やも知れぬが」
「洛陽も中心部はこの通りですが、庶人の住む地区はもう少し雑然としています。ですが、この街は城壁に至るまで、全てが碁盤の目ですね」
「洛陽ですら及ばぬ整備をされた街、か。稟、心当たりはあるか?」
「……いえ。襄陽はここまで大規模ではありませんし、長安は荒廃しています。その他の街はいずれも規模が小さいですし」
この大陸に存在せぬ街の図面、という事か。
しかし、華琳がそのような夢物語を見せたりするであろうか?
……いや、今この時に存在せずとも、理想として掲げて実現させる事はあり得る。
となれば、この街は。
「そうか。これは許昌だ」
「許昌、ですか? しかしあそこは小さな街でしかありませんし、このように整備もされていません」
「そうであろうな。だが、いずれこうなる、という予想図……という事ならば合点がいくな」
「では、曹操殿はいずれ?」
「少なくとも、私の知る曹操は後に遷都を行っている。その、許昌にな」
稟は、地図に目を落とす。
「順調に出世の道を歩んでいるとは言え、曹操殿はそこまでお考えなのですか」
「奴ならば不思議はないな。……少なくとも、漢王朝を見限っているのは確かだ」
「では、自ら帝位に?」
「……それはわからぬ。だが、己の手で大陸を一つに、という事は考えている筈だ」
「あり得るでしょうね。あの野心と覇気は、乱世では英雄として名を残す資質でもありますから」
「……乱世の奸雄、か」
「は?」
首を傾げる稟。
「いや、私が知る曹操が、そう評されたという説があるのだ。『治世の能臣、乱世の奸雄』、とな」
「言い得て妙、ですね。どのような時代でも名を成す御方とは思いますから」
そのような曹操……いや、華琳が何故、この地図を見せたのか。
仮に私の推測が正しい場合、これは重要機密ともなり得る。
それを事もなげに私に見せる意図は何か。
将来を見据えているという挑発か、それとも自信の表れか。
意見を述べよ、とは申していたが、この図面そのものには取り立てて付け加える事はなさそうだ。
……だが、何もない、では恐らく満足せぬであろうな。
謎解きは、休みながら考えるとするか。
「歳三様。そう言えば曹操殿は明朝、何かをお考えのようでしたが」
「ああ。あれこれ考えても仕方あるまい、こうなれば、俎の鯉だ」
「そうですね。では、そろそろ休みましょう」
「うむ。明朝は、稟の寝顔
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