第一部
第五章 〜再上洛〜
五十四 〜陳留にて〜
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の、未来を見据えた想いが、この陳留全体を包んでいるとしか思えぬ。
「……ですが」
「何だ?」
「私は、比べるならばギョウの方が優れていると思います」
「お前ほどの者が、身びいきで申す訳もないと思うが。理由は?」
「確かに陳留は活力があり、人が集まって当然の場所です。ですが、それは曹操殿の器量と性格が反映されている場所、とも言えます」
「……うむ」
「それに引き替え、ギョウは歳三様、というよりも、歳三様の許に集った皆で作り上げた街です。無論、私自身を含めて」
いつになく、熱っぽく語る稟。
「陳留は、曹操殿が他に行かれたら、恐らくはそこで止まってしまいます。ですが、ギョウは仮に歳三様がおられずとも、皆の想いが街を作り上げていく……そう思います」
「皆の想い、か」
「そうです。無論、歳三様がその中心にいればこそ、皆がより一層、力を合わせられるのもまた事実ですが」
「あら、興味深い会話ね。私も混ぜて貰えるかしら?」
不意に、華琳が部屋へと入ってきた。
「刺史ともあろう御方が、随分と身軽だな?」
「あら、私だって四六時中公務って訳じゃないのだけれど? それよりも歳三、郭嘉。ちょっと付き合いなさい」
私と稟は、顔を見合わせた。
「何処へ連れて行くつもりだ?」
「ふふ、来ればわかるわよ? 安心なさい、貴方達を捕らえるつもりはないわ」
「……良かろう。稟、良いな?」
「はっ。歳三様と別行動を取るつもりなど、毛頭ありませんから」
「ほーんと、妬けるわね。まぁいいわ、ついて来なさい」
華琳は、笑顔のまま顎をしゃくった。
城中に連れて行かれるのかと思いきや。
……案内されたのは、城壁の上。
「今宵は月が美しいわ。こんな日に月を愛でないなんてあり得ないわね」
「月見酒、という事か。……良かろう」
簡素ながら、酒器と肴が、既に用意されていた。
華琳手ずから、杯に酒を注いだ。
「じゃ、名月に乾杯、でいいかしら?」
「うむ」
「はい」
……む、この酒は?
香りといい喉越しといい、あまりに覚えがある。
「流石、気がついたようね。そう、この酒は貴方の発案だそうね?」
「存じていたか」
「当然よ。試してみたら、今までにない美味しさがあったもの」
「そうか。それは何よりだ」
華琳は杯を干すと、私に向かって突き出してきた。
「注ぎなさい」
「いいだろう」
華琳は、いつになく饒舌であった。
月を題目にした詩吟を、即興で作って朗々と詠う程に。
私にも何か見せよ、と迫られた故、やむなく拙い俳諧を披露したが、
「ひねりがないわね。……言葉は綺麗だけどね」
案の定、その程度の評価であった。
「貴方、本当に私のところに来ない? 詩吟というものを、徹底的に教えてあげるわよ?」
「…
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