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至誠一貫
第一部
第五章 〜再上洛〜
五十四 〜陳留にて〜
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打ちすら及ぶまい」
「なるほど。ちなみに夏候淵殿は如何なのです?」
「私か? 華琳様には及ぶところではないが、それなりにこなせる自信はあるな」
「……ふむ。私も心得がない訳ではないのですが、恐らくは貴殿には敵わないでしょうね。何となく、そんな感じがします」
「いや、あくまでもそれなり、と言っておこう。華琳様ならともかく、私程度で過大評価されるのもどうかと思うからな」
「なるほど。では、他の方は如何ですか、例えば夏候惇殿とか」
 すると、夏候淵は苦い顔つきになり、小さく頭を振った。
「……妹の私が言うのも何だが、姉者には料理は向かない。いや、むしろさせるべきではないな」
「得手ではない、と?」
「それどころか、厨房がいくつあっても足りなくなるぐらいだ。……それ以上は、察してくれると助かる」
 厨房がいくつ合っても足りぬ?
 ……あの調子で包丁を振り回すのやも知れぬが、その程度で壊れる訳もなかろう。
 夏侯惇の料理を食す機会などないであろうが、一応留意しておくか。
「そう言う土方殿の方はどうなのだ? 実に多彩な顔ぶれが揃っているが」
「そうですね。歳三様の麾下では、やはり彩……張コウが最も優れていますね」
「張コウ殿か……ふむ」
「それから最近、まだ年若いですが、有望な料理上手と知己になりまして」
 言うまでもなく、典韋の事であろう。
 さりげなく、探りを入れるつもりか。
 ……だが、相手が夏候惇ならばともかく、夏候淵ではどうか?
「なるほど。その者も土方殿に仕官を望んでいると?」
「いえ。洛陽に同郷の親友がいるとかで、我が軍に同行していますよ」
「ふふ、土方殿は本当に顔の広い御方なのですね。……さて、そろそろ参りましょうか」
 やはり、おくびにも出さぬか。
 稟もそれは期待していなかったらしく、涼しい顔のままだ。


 その後、日が暮れるまで、陳留の城下を見て回った。
 総じて治安が良く、清潔な街並み。
 そして何より、庶人に活力が感じられた。
 誰かの模倣ではなく、自らの発想と視点で築き上げた成果。
「見事としか言いようがないな」
「そうですね。私も陳留を訪れたのは初めてですが、想像以上の繁栄ぶりでした」
 華琳に宛がわれた宿で、稟と二人、感想をぶつけ合った。
「ほう。大陸中を廻ったと思ったが、意外だな」
「……歳三様も知っての通り、私は嘗て、曹操殿に仕官する事を目標にしていましたから。陳留を訪問するのは旅の最後に、と決めていたのです」
「そうか。率直にどうであった、この陳留は?」
「歳三様にお会いする前に、訪れなくて良かったと思います。……曹操殿の器量もそうですが、この街には人が離れ難くなる、そんな魅力に満ち溢れています」
 私も同感だ。
 ただ活気があるだけではない。
 華琳
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