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至誠一貫
第五章 〜再上洛〜
五十三 〜三軍筆頭の勇者〜
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の一人。
 ならば、弓が得物でも納得がいく。
 しかし、老齢に達しているとはとても思えぬな。
 ……何故か、年齢を確かめるのは危険という予感がする故、それ以上は詮索するまい。
「拙者、関興と申す者。此方は、義妹の関索。それから共に旅をする戯志才でござる」
 稟は嘗ての偽名だが、私と疾風は、新たな偽名を使っている。
 予てから、打ち合わせておいた通りだ。
 私の知る歴史では、関興も関索も関羽の息子だが、この世界では無論、実在しない。
「失礼ですけど、皆さん旅をなさっておいでですか?」
「然様。拙者と義妹、大陸中を見聞している道中にござる。戯志才は仕える主探し、目的は違えど旅は道連れ、という奴でござれば」
「そうでしたか。私は、公用の帰り道なんです」
 と、黄忠。
「公用ですか。では黄忠殿は宮仕えされておられるとか?」
「ええ、そうですわ。……でも戯志才さん、私の主はお奨め出来ませんわ」
「何故でしょうか?」
「見たところ、貴女様は軍師をお望みのようですね。私がお仕えしているのは、荊州刺史の劉表様ですが……」
 既に荊州刺史は劉表が務めている、そこは私の知識とは異なるが。
 ただ、黄忠は確かに荊州の出、そのまま劉表に仕えたのは変わらぬようだ。
 疾風と稟は、互いに顔を見合わせている。
「黄忠殿。荊州刺史の劉表殿、と申せば、教養に優れ、善政を敷く御方……私はそう聞いておりますが」
「それに、荊州は豊かで、先の黄巾党の騒乱でも、殆ど荒れなかったとも言われていますね」
 二人の言葉に、黄忠が頷く。
「そうですわね、それは事実です。……ただ、劉表様御自身は温厚な人物で、それを良い事にいろいろと企んでいる者もいますので」
 思い当たるのは、蔡一族であろうか。
 劉表亡き後、劉gと劉jで後継者争いが起こり、ほぼ全軍が曹操に降る形となった筈だ。
「……ですが、劉表殿は皇帝陛下の一族にも当たる名家。庶人が苦しんでいないのなら、良い事ではありませんか」
「……ええ。戯志才さんの仰る事はごもっともですわ。ただ、劉表様は病がち、あの御方に万が一の事があれば、荊州はどうなるのか……」
 黄忠は、深くため息をついた。
「貴殿は武官ながら、荊州の行く末を憂いておいででござるか。……しかしながら、見ず知らずの我らに、そのような事を話しても良いのでござるか?」
 すると黄忠、妖艶な笑みを浮かべ、
「それなら心配していませんわ。関索さんと戯志才さん程の方をお連れの貴方様が、そんな矮小な御方な筈がありませんもの」
「……随分、拙者を買い被られているようですな?」
「あら、これでも人を見る目はあるつもりですわ?……それに、今のままでいいのか、私自身悩んでいるところですから」
 芝居だとしたら大したものだが、言葉や仕種に嘘は感じられぬ。
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