暁 〜小説投稿サイト〜
至誠一貫
第五章 〜再上洛〜
五十三 〜三軍筆頭の勇者〜
[2/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
、だいぶ喫水が下がった気がする。
「そろそろ出航するようですね」
「うむ。往来が殊の外激しいな」
「それは、歳三殿の功ですな」
 と、疾風が微笑む。
「私の功?」
「そうです。もともと、黄河の流域は豊かな土地。治安さえ安定すれば、自ずと人が集まります」
「そして、北岸は我らが冀州。……後は、おわかりでしょう?」
「……私は、為すべき事を行ったまで。功とは思わぬ」
「ふふ。歳三様は変わりませんね」
「全くだ。だからこそ、お仕えし甲斐があるとも言えるな」
「……冷やかすのは止せ」
 だが、こんな一時も悪いものではない。
 そんな事を思いながら、私は岸壁に目をやった。
「待って下さ〜い」
 と、一人の女が手を振りながら、駆けてきた。
 船員がそれに気づき、纜を解く手を止める。
「早く乗りな!」
「済みません、助かりました」
 女は頭を下げ、船内に飛び込む。
 当然、乗客全ての視線を浴びる格好になっている。
 ……その殆どが、その容姿と胸元に集まっているようだが。
 妙齢のようだが、それでいて若々しい印象を受ける。
 美人と言って差し支えない顔立ちをしている。
 それに加え、人間離れした大きな胸が、その存在を誇示。
 男ならば、惹かれて止まぬところであろうな。
 だが、私はそれ以上に、身のこなし、隙のなさが気になった。
 弓を背にしているあたり、武官には相違なかろう。
「疾風。あの者、どう思うか?」
「恐らく、歳三殿が感じられた通りかと。かなりの遣い手と見ました」
「うむ。稟、見覚えはあるか?」
「いえ。ただ、素性は気になりますが……。何者でしょうか?」
 そんな思いを感じ取ったか、女は此方へと近づいてきた。
「あの。ここ、宜しいでしょうか?」
 どうやら、我らの隣に陣取るつもりらしい。
「……構いませぬが」
「そうですか。では、失礼します」
 女は微笑むと、懐から手拭いを出し、額を拭いた。
「ふう……」
 一息つきながらも、やはり隙は感じられぬな。
 よく見ると、小指の根元にタコが出来ている。
 得意とする得物は、背にした弓で相違あるまい。
 夏候淵や祭、大史慈は既に面識があるが、それ以外の弓遣い……か。
 そう思っていると、女が私を見た。
「あの。私の顔に何かついてますか?」
「いや、見事な弓をお持ちのようですな。つい、見入ってしまったようで、ご無礼仕った」
「いえ、お気になさらず。でも、この颶鵬(ぐほう)に目を付けられるなんて、なかなかの眼力をお持ちですわ」
 そう言いながら、女は弓を下ろした。
「宜しければ、お名前をお聞かせいただけますか? 私は荊州の住人で、黄忠と申しますわ」
 ……その名には、無論聞き覚えがある。
 老いてますます盛ん、と言われた五虎将
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ