第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
五十二 〜洛陽へ〜
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がある。
決して武のみだけでなく、機転が利き、勘も悪くないようだ。
それに、性格が素直そのもの。
何かを言い含められたり、探るように指示されてくるならば、他の者を寄越す筈だろう。
「いや、予定通りで良い。では稟、風。手筈を頼むぞ」
「はっ」
「御意ですよー」
後の事は任せておけば良かろう。
「少し、黄河を見てみたい。愛紗、供をせよ」
「はいっ!」
黎陽の街外れ。
そこに鎮座する、蕩々たる大河。
文字通り黄褐色に濁っているそれは、対岸が見えぬ程の規模だった。
富士川や大井川がちっぽけに思えてしまう、そんな印象すらある。
「凄いものだな」
「ええ。この黄河があればこそ、古より洛陽が栄え、多くの者が大地の恵みを受ける事が出来たのですから」
愛紗も、眼を細めて川面を見つめている。
「……なればこそ、この流域を巡っての争いもまた、絶えぬのであろうな」
「……はい。中原を制す者、天下を制す。歴史は、その繰り返しです」
中原の定義も定かではないが、少なくともこの辺りは確実に含まれていると考えて良い。
「ところで愛紗。何故、お前を伴ったか……わかるか?」
「いえ。何か、お話でも?」
「そうだ。……私が知る関雲長は、この地で名を残したのだ」
「そうなのですか。どのような功を立てたのですか?」
「曹操の許で、袁紹軍との戦に臨んだのだ。そして、顔良を討ち取った」
「なんと……。では、ご主人様の知る関羽は、曹操に仕えていた、と?」
「いや。その関羽は、劉備という人物の麾下であり、義兄弟であったのだ」
「劉備……」
愛紗の視線が、宙を泳いでいる。
「その劉備なる人物、どのような御方だったのでしょうか?」
「……諸説あるが、人を惹き付けて止まぬ魅力を備え、意志が強い人物であったと聞く。漢王朝の血筋とは申せ、貧村で筵を織って暮らしていた無名の若者が、曹操や孫権らと天下の覇を競うまでになった……私の知識では、そうなっている」
「……では、その後の関羽はどうなったのでしょうか?」
「うむ。此処での戦いの後、劉備の許に帰参。数々の武功を挙げ……最後は孫呉に敗れ、討ち取られる事になる」
「……そうですか。武人として、生涯を全うしたのですね」
「そのようだ。……だがな、愛紗」
「はい」
「私の知る関羽と、お前は違うぞ? 武人に死ぬな、とは申せぬが。命を無駄にするでないぞ?」
「ご主人様……」
いつになく、優しい顔の愛紗。
……いや、これこそが本来の顔なのであろう。
「あ、土方さん。此方でしたか」
顔良が、駆け寄ってきた。
「お姿が見えないので、皆さんに聞いたら此処だと。あの、お話中でしたか?」
「いや、構わぬ」
「そうですか。あの、麗羽さまがお目にかかりたいと」
「ならば、戻る
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