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第一章
清明と狐
京都とその周りには昔から怪異な話が実に多い。それは平安時代の頃からであり実に色々な話が残っている。
摂関家に華やかな頃もそれは同じでこの藤原道長公もまたそうした怪異に実によく遭う御仁であった。
この日道長は都の外で遊んでいた。遊ぶといっても彼の別邸のある宇治にお参りに行ってその帰りである。帰りに林の側を牛車で通ると林の中に不意に灯りが見えるのであった。
「ふむ」
彼はその灯りに気付いた。そうして怪訝な顔になるのであった。
「これは面妖な。林の中に灯りとは」
「刺客でしょうか」
「いや、そうではなかろう」
伴の者達の危惧する声にこう答えた。
「刺客ならばとうの昔に弓でも放っておる。それではない」
「では一体何でしょう」
「変化かの」
道長はそう思った。
「土蜘蛛であろうか」
「土蜘蛛!?」
「それでしたら」
「だからそう脅えるでない」
かえって彼の方が落ち着いていた。脅える供の者達にそう言って落ち着かせる。彼は夜の闇の中でユラユラと揺れるその灯りを牛車の中からじっと見ていた。
「どちらにしろじゃ」
「はい」
「このまま放っておくわけにもいくまい」
これだけははっきりしていた。怪異ならば取り除いておかなければどういった災いになるかわからない。道長が考えていたのはそこであった。
「都に帰ったら手を打つぞ」
「手をですか」
「それにはとっておきの御仁がおる」
道長は悠然と告げた。告げると共に車を出させた。
「こうした話にはな」
「それでは今は」
「速やかにここを」
「どちらにしろな。怪異に為す術がないならば離れるのが一番じゃ」
道長は落ち着いてその分別を述べた。そうして車を先に進ませたのである。
「帰るぞ、早くな」
「はい」
「それでは」
こうして彼等はすぐに都に戻った。道長は都に帰るとすぐにある者の屋敷を訪れた。それは安部清明の屋敷であった。
都でこの者を知らぬ者はない。当代きっての陰陽師でありその力は絶大なものである。天才とも狐を母に持つとも言われている程だ。道長がその彼のもとを訪れたのは当然林の中のことに関してであった。彼はすぐに自分が見たことを事細かに清明に対して述べるのであった。
「ふむ」
清明はそれを黙って聞いていた。細面で白面である。切れ長の黒い目が実に印象的だ。黒髪はまるで絹の様に輝きその整った顔立ちを映えさせている。黒い礼装と合わさりこの世ならぬ美貌をそこに浮かび上がらせていた。
「灯りですか」
「左様」
道長は全てを語り終えてからまた清明に告げた。
「妙な灯りじゃったが」
「襲われなかったのですな」
「一人としてな」
道長はありのままにそれを述べた。
「幸い
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