第十章
[8]前話
「そこまでされてな」
「見事な方ですね」
「全くだ、あの方ならばだ」
それこそ、とも言うジュリオだった。
「これからよりよき騎士になられる」
「王も素晴らしい騎士を手に入れられましたね」
「まさに宝だな」
「そうです、ただ」
ここでだ、レオはこれまで晴れやかだった顔を曇らせてだ。自身の主にこう言った。
「旦那様は」
「私がどうしたのだ?」
「優勝はされました」
「うむ、幸いな」
「しかし。王の軍にはですか」
「ははは、入らんよ」
「ミスコンティ辺境伯の軍に入られると仰いましたが」
王に優勝の時に実際に言った言葉だ。
「叔父上でもあられる方の」
「そうだ、そしてそこでな」
「異教徒達と戦われるのですか」
「私にはそうした方が合っている」
こう言うのだった。
「気品ある王の軍よりもな」
「辺境の方がですか」
「会っている、だからな」
それで、というのだ。
「私は行く」
「そうされますか」
「うむ、ではな」
こう言ってだ、ジュリオはビールを飲んだ。大杯は瞬く間に空になった。そしてその木のジョッキにまたビールを注いでもらい。
再び飲む、レオにそうしつつ言った。
「一旦領地に戻り行くぞ」
「はい、そういえば辺境伯のご領地は」
ここでレオはあることに気付いた、その気付いたことはというと。
「ビールもワインもでしたね」
「むっ、知っていたか」
「まさかそちらの方が」
「ははは、そちらもある」
否定はしなかった。
「もっとも気品がある場所は似合わないのは本当だ」
「その二つの理由で、ですか」
「叔父上のところに行くぞ」
「あちらでもお酒は程々に」
「またそう言うのだな」
「何度でも、何時でも言わせて頂きます」
主を思うが故に、というのだ。
「私は旦那様の従者ですから」
「だからか」
「左様です」
こう言いつつもだ、レオはジュリオと共にいた。ジュリオは辺境伯領において武勇を馳せアンジュリーナも王の軍で活躍した。その二人の若き日の逸話である。
仮面の騎士 完
2014・12・20
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