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第一章
呼ぶ子
この時佐賀原剛は父と共に山にいた。幾層にも連なる鬱蒼とした緑の山の中にいてその中からその豪壮な景色を見ているのだった。
そしてその中で。彼は父に対して問うた。
「なあ父ちゃん」
「何だ?」
「山の中でこうして声出すだろ」
実際に声を出す動作をしてみせる。両手を口元に当てて。
「そうしたら声が返って来るよな」
「ああ」
父も彼のその言葉に頷く。
「さっきやった通りにな」
「それ何でかな」
首を傾げてそのうえでまた父に問うのだった。
「何で声が返って来るんだ?」
「それは山の向こうに妖怪がいるからさ」
「妖怪が?」
「そうさ。呼ぶ子っていう妖怪がな」
笑顔で我が子に対して話す父だった。周りは見渡す限りの森で緑の世界がそこにある。その緑の中で我が子に話をするのだ。
「いてな。それでな」
「声を出したらそれに返してくれるんだ」
「ああ、そうさ」
また笑顔で我が子に語る。
「だからなんだよ。不思議だろ」
「妖怪がなんだ」
剛は父の言葉を聞いて如何にも不思議なものを聞いたという顔を見せた。
「そこにいてそれでなんだ」
「そうさ。山のずっと向こうにいるんだぞ」
その山の遥か彼方を指差していた。
「ずっと向こうにな。そこから声を返してきているんだ」
「そうなんだ」
「凄いだろ」
「凄いなあ。それにしても」
話を聞いているうちにだった。彼はふとこんなことも思うのだった。
「それで」
「それで。今度は何だ?」
「その呼ぶ子って妖怪はどんな姿をしているのかな」
次に思ったのはこのことだった。剛はその妖怪が果たしてどんな姿をしているのか。そのことが気になりだしたのである。
「一体。物凄く怖い姿をしているのかな」
「さてな」
父は今度は彼には答えはしなかった。
「どんな姿をしているんだろうな」
「父ちゃんも知らないんだ」
「今まで見た人間は誰もいないさ」
こう我が子に話すのだった。
「本当にな。誰もな」
「誰もなんだ」
「一体山の何処にいるのかもわからなくて」
このことも剛に話してきた。
「それでどんな姿をしているのか。見た人間はいないんだ」
「そうなんだ」
「そうさ。本当に誰も見たことがない」
父はこのことを強調するかのように言葉を出すのだった。
「誰も。いないんだよ」
「そうなんだ。だったら」
父のその言葉を聞いているうちにだった。彼は今度はこう思うのだった。
「僕が見つけるよ」
「おいおい、妖怪をか」
「うん、見つける」
強い声で言うのだった。
「絶対に。だから行こう」
こう言いながら父の手を引っ張るのだった。その彼にとってはとても大きくて太い手を。引っ張るの
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