1部分:第一章
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も」
「妙だ。生きている者が一人もいない」
二人は村を見回りながらそう言い合った。彼等はここでふと気付いた。
「黒死病でしょうか」
最初にそれを口にしたのはゴッドフリートであった。所謂ペストのことである。欧州で何度か大流行しその度に多くの者の命を奪ってきた。その病を脳裏に浮かべたのであった。この時この病は欧州にいる全ての者にとっておぞましい恐怖そのものであった。村や町が一つなくなったことも珍しくはない。それが魔女によるものだとかユダヤ人やジプシーによるものだというデマにより多くの陰惨な事件も起こっている。そうした意味でもこの病は欧州を黒く覆う魔物だったのである。ゴッドフリートはその名に恐怖すら感じていた。
「村から誰もいなくなるとは」
「いや、待て」
だがヴィーラントはふと気付いた。
「それにしてはおかしいぞ」
「家が古ぼけてはいないと」
「それだけじゃない。他のものも」
「そういえば畑も」
今日耕されたような。そうした様子であった。
「水車も動いたままだ。どうやら黒死病でいなくなったわけではない」
そもそも鼠すらいないのだ。ペストの原因は鼠である。この時代はそれは知られてはいない。だがその鼠がいないというのがペストではない証拠であった。
「では一体」
「わからないな。突然失踪したような」
「戦争があり徴用されたとか」
「村人全員をか?老人や子供まで」
それもまた有り得ない話である。
「ましてや。今帝国は平和であるのに。ましてやここでは戦火は絶えて久しい」
「ではそちらでもないですか」
「山賊も。ここにはいない」
「ええ」
彼等はここまで二人で旅してきてそうしたものの話は噂ですら聞かなかった。実に平和なものであったのだ。それもやはり可能性はなかった。
「消える理由はない」
ヴィーラントは戸惑ってそう述べた。
「どうして村から人がいなくなったのだ」
「旦那様」
ここでゴッドフリートがヴィーラントに声をかけてきた。
「何だ?」
「城に行ってみませんか」
「城にか」
「はい、そこには誰かいるかも」
「そうだな。兵士の一人でも詰めているかも知れない」
守りの為の城である。備えで兵士はある程度置いているのが普通だからだ。
「では行ってみるか」
「はい」
「そして詳しい話を聞くとしよう」
今度は城に向かった。城門も城の橋も開き、下ろされていた。だがやはりそこには人の気配はなかった。
「やはり妙だな」
「ですね」
ゴッドフリートは主の言葉に頷いた。
「は入ってみるか」
「そうしますか」
馬を門のところでつなぎ中に入る。やはり城の中にも誰もいなかった。
「誰かいないのか」
ヴィーラントは城の中で声をあげる。
「いたら返事をしろ」
だが返事はない。城
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