否定に傾く二人の
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よ」
「は……どうだか」
うんざりだ、というように肩を竦めた秋斗をまた嘲る郭図。
居辛い沈黙が場を支配し、大きなため息を吐いてから秋斗が口を開いた。
「俺はお前の才能を高くかってるんだが……死んで貰うしかねぇのが残念でならん」
「……ああ、張コウか。そりゃどう足掻いてもあいつは俺を殺すだろうよ」
一寸だけ驚いた。自分が追い詰めた男が憎しみを欠片も抱いていないのだ。
記憶喪失の事を知らない郭図は騙される。
触れてやるのも下らない。負けた気になるから、明の事を話に出した。
「なんだ……もっと無様に縋り付くかと思ったけど……」
今度は秋斗が驚く番であった。明の情報では保身が全てのような男だと聞いていたのだから当然。
軽く話す郭図に驚愕を隠せない。
そんな彼を、鼻で笑う。
「はん……なんで張コウやお前らの思い通りになんなきゃならねぇんだよ。それに……無様に絶望に落ちた張コウの泣き顔を思い浮かべるだけで腹が捩れるくれぇ面白れぇ」
悪辣な笑みだった。
憎しみを内包し、愉悦と侮辱が同居したその表情は狡猾な蛇のよう。
「クカカッ、ざまぁみろ。田豊もお前も張コウも……俺の策には勝てなかったんだぜぇ? 俺も勝ててねぇし死ぬが、お前らに負けなかっただけで上出来だ」
この男は誰からの信も受けず、誰にも信を向けず、たった一人で戦った男。
彼の言葉は真実だった。
戦は勝ったが、夕を救えなかった時点で秋斗の負けに等しい。
悔しさは無い。明のような憎しみも無い。浮かぶ感嘆の念は……悪辣や外道と言われていようと、この男がまさしく本物だと感じたから。
「……一応聞くけど、従うつもりは?」
「ねぇよ。甘ったれのクソアマ共の下で働くなんざごめんだね。俺を従えたきゃあ張コウと曹操の頸を持ってこい。そうすりゃ“俺様がお前を上手く使ってやる”」
傲慢な光は嘲笑と共に。
「黒麒麟よぉ? てめぇは女に従うのを認めてやがるが、俺は認められねぇ。この世界はイカレてやがる。俺は一番楽で、効率的な策を出せるぞ。誇りなんざいらねぇ。欲しいのは結果だ結果。頭は悪いが異端者のお前なら……分かってんだろ? 分かってるクセに縛られやがって、情けねぇ」
郭図は秋斗の存在が許せない。自尊心の塊のような彼は、ナニカに従い続ける彼を許せない。
理解している上で、悪辣も効率も判断できるのに使わない彼の事には、侮蔑しか浮かばない。
ただ、そんな侮辱は彼を怒りに染めず、別の思考に向けさせる切片と為した。
――ああ、そうだよ。お前は正しい。この世界はイカレてる。もっと長く、もっと悪辣な策だらけで、人生全てを賭けても足りないような大乱世があるはずなんだから。
知っていた。分かっていた。こん
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