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乱世の確率事象改変
否定に傾く二人の
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向け、

「……っ」

 ガツン……と郭図は思いっ切り地面に頭を打ちつけた。
 痛みで無理やり眠気を覚まし、額から零れる血を気にせずに顔だけを上げ、彼の黒瞳を下から睨みつけ……口を引き裂く。

「……クカカッ、いいかよく聴け黒麒麟! 戦はなくならねぇ!
 どれだけ金を積んでも!
 どれだけ理を布いても!
 どれだけ信を結んでも!
 どれだけ律を張っても!
 どれだけ法で縛っても!
 どれだけ徳で鎮めても!
 人が人である限り、戦はこの世から消えやしねぇんだ! 全てに間違いは無く、肯定し否定し続けるだけで……てめぇが抱く夢は幻想でしかねぇ! 矛盾してるてめぇには語る権利すらないがなぁ!」

 たらりと零れる血を舐めとった。

「嘘、嘘、嘘、嘘、嘘だらけだ! てめぇの作る世界も、てめぇの存在も、全てが嘘……クカッ、クカカカカ……」

 ぼやける視界で、郭図はゆっくりと瞼を降ろして行く。

「……現実に、打ちひしがれろ……天下泰平は、泡沫の夢……人の性は、欲しいモノの為に、争いを避けられない。幻想を夢に見て、今を楽しめねぇお前は……やっぱ、道化だ。嗤えるぜ」

 喉を一つ鳴らしてから、意識を闇の中に落として行った。
 もうぴくりとも動かない郭図の前で、彼はゆるりと立ち上がる。

「……んなこたぁ分かってる。ただ……出来ないからやらないってのは間違いだ。俺はな、時計の針を進めるだけ進め、これから先にこの大陸の中で起きる戦だけを消したいんだ。それを後続に託すのも人の仕事だろうよ……俺がこんな事を誰かと語り合うなんて一生無いが……」

 一瞥して、ふるふると首を振った。

「ただなぁ、郭図……“もし俺が”……現代の記憶も無い、ただ華琳に仕えるだけの一人の将や兵だったとして……」

 紡ぐ言葉の途中で、さっきまでズレていた感覚が元に戻り始め、

「……この世界に今の俺みたいな、天の御使いってのが別に居たなら……きっとそいつを許せない」

 自分とは正反対の腕を思い出して、

「……例え全てを敵に回しても、お前と同じで最後まで憎んで蔑むと思う。この世界は、この世界で必死に生きて戦ってる奴等の為にあるべきだろうから」

 あの時に見えた、白きモノが作る暖かい世界を……否定した。

「俺と違って……一回キリの人生で、みぃんな幸せを掴もうと足掻いてんだから」

 牢屋を後にする彼の足取りに違和感は無い。
 彼の気付かぬ所で、黒の外套の端が一瞬だけ世界に溶けて、また戻った。

「矛盾の果てに生き残る人達全ての為に、平穏な世界を作れるなら、俺だけ嘘を付き続けるさ」






















 モニターの前で拳を握る少女が一人。
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