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歪みすぎた聖杯戦争
6話 交叉する視点
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『気配遮断』スキルを備え持っていたからだ。
海を渡って吹き込む突風に『四代目火影』と背中に描かれている白のローブを煽られながら、侵入するアサシン。誰に気づかれることもなくアサシンが身を潜めていたのは、セイバーとランサーの対決の隙を見計らうのに絶好の高所──岩壁に聳え立つデリッククレーンの上だった。
戦場となっている倉庫街の街路からは五百メートル近く離れている。
人間の視力など及びもつかないサーヴァントのめであれば、この距離からでも死闘の直中にあるランサーとセイバーの、その表情までもが見て取れた。だがこの遠距離にアサシンのスキルを重ねれば、戦闘中の二名はもちろん、他にそれを監視しているサーヴァントがいたとしても、まず察知される気遣いはない。さらに隠身に鉄壁を期するなら、実体を纏わずに霊体の状態ではアサシン自身の知覚もまた『霊視』の感覚のみに限定される。今夜のアサシンは与えられた任務を従容に受け入れ、ただ黙認とその時を待ち続けていた。









○○

死闘の続く倉庫街より南東に数kmの地点にある、ホテルの一室にて、目を閉ざし、それでいて微睡むこともなく、静寂の中に神経を尖らせている漆黒の人影は、言峰綺礼の僧衣姿である。
傍目には瞑想に耽るかのようなその横顔が、いま耳朶に海風の唸りを聞き、瞼の裏に剣戟の火花を眺めていようとは、誰に想像し得ようか。彼の視覚と聴覚が認識しているのは、遠く離れた倉庫街で人知れず展開されているサーヴァント戦……今この瞬間に彼のサーヴァントであるアサシンが見届けている光景と、寸分違わぬ知覚であった。彼が行使しているのは、三年に亘る修業の成果だった。遠坂時臣により伝授された魔術のひとつ、共感知覚の能力である。魔力の経路(パス)が繋がった契約者に対し、綺礼はこうして感覚器の知覚を共有することが可能だった。
聖杯戦争において、サーヴァントの行動を遠隔地から完全に監視できるこの術は極めて有用度が高い。
特に斥候能力に長けたアサシンを従えているのであれば、鬼に金棒とも言うべき能力である。

「──未遠川河口の倉庫街で、動きがありました。いよいよ最初の戦闘が始まった様子です」

そう綺礼が語りかける闇の中には誰もいない。
代わりに、そこには卓上に載せられた古めかしい蓄音機が真鍮製の朝顔を綺礼に向けて傾ける。
果たして、ただの骨董品と見えた蓄音機は、人語によって綺礼の言葉に応答した。

『此方の方も戦闘が始まったようだ。』

「……?どういう事でしょうか今、此方の方も、と…」

『なに、戦闘といっても、アーチャーが敵マスターを発見し処理するだけの事だ。心配は無用だ。』

かすかに歪んだ音質ではあるが、余裕のある洒落な声は、まぎれもなく遠坂時臣のものである。
よくよく見れば、その骨
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