第十五話
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た。ちぃっと考えれば分かる話だったじゃねぇか。
でも、まぁ……もう、どうでもいいか。俺も好きなんだ、なら夕殿の申し出を拒む理由はねぇ。
寧ろ、俺が言わなければならなかったことだというのに。
「俺も……夕殿を、慕っている……が、良いのか。こんな情けない男が相手で」
「私はそういう片倉様が好きです。いえ、この数日の間に片倉様を知ってもっと好きになりました」
さらりと言われて耳まで真っ赤になってしまった。恥ずかしくなって顔を背ければ、夕殿が静かに笑っている。
好きだと言われてこの様か。どんだけ情けねぇんだ、俺は。
「……本当、情けねぇな。俺は」
自分が格好良いとは思わないが、それでも惚れた女の前で格好つけることも出来ない俺は無様でいけない。
純情でも初心でもないくせに、いちいちこうして心を揺さ振られるのは何故だろう。
「格好つけるばかりが有り方ではございません。そればかりだと疲れてしまいますもの……
お互い心を見せ合える間柄、その方がずっと自然で良いのではないでしょうか」
心を見せ合える間柄、か。確かにその方が楽なのかもしれない。
役目柄、普段素直にあれないからそういう人が近くにいてくれると……俺も心が穏やかになる。
ぐっと腕を掴んで夕殿を抱き寄せる。小柄な夕殿は俺の腕の中にすっぽりと納まっていた。
「か、片倉様?」
戸惑ったようにそんな風に呼ぶのが何となく嫌だと思った。
夕殿に片倉様、なんて距離を置くような呼び方をされたくはない。いや、距離を置かれたくない。
「……小十郎」
「え?」
「片倉様だなんて他人行儀な呼び方でなく、名前で呼んで貰いたい」
「こ、小十郎様」
名前を呼ばれただけで嬉しくなっている俺は、もう駄目かもしれない。
ついこの前まで姉上が好きでたまらなかったというのに、別の人間に心を移しているのは薄情だろうか。
でもまぁ……所詮俺はそんな人間だったということなのだろう。正直なところ、それでも別にいいと思っているのだから参ってしまう。
やっとこれで本当に弟に戻れる。これでもう、姉上を苦しめる必要は無くなった。
抱きしめたまま夕殿ごと布団に横になり、しっかりと腕に抱いたまま目を閉じる。
夕殿の温かさに安堵しながら、そのまま眠ってしまった。
そしてこの半時後、様子を見に来た大姉上に拳骨を喰らってニ刻ほど説教を喰らったのは……
思い出しただけでも震えが来るので詳しく話すのは止そうと思う……。
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