暁 〜小説投稿サイト〜
竜のもうひとつの瞳
第十五話
[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
となっていた夕殿がいた。

 「片倉様、どうなさいました?」

 優しい笑顔に胸が高鳴るが、それをのんびりと自覚する余裕は俺にはない。
今はただ、この動揺を収めることに集中しなけりゃならねぇ。これ以上、無様なところを見せるわけには……。

 「い、いや……何でもねぇ」

 努めて冷静に振舞おうとしているが、動揺の色は隠し切れない。
舌打ちしたい気分だったが、そんなことをすれば平静でない事を証明するようなものだ。
流石にこれ以上、無様なところは見せたくない。好いた女である以上、特に。

 「片倉様、この前の事ですけれど」

 この前の事、と言われて途端に俺は動揺を見せちまう。取り繕っていた意味が無い。
必死に言い訳をしたいとも思ったが、流石にそれはみっともないのは分かる。
いい加減腹を括れと自分に言い聞かせ、じっと続きを待つことにする。

 もう何を言われても絶対に俺は動じない。動じたりしねぇ。
伊達に竜の右目と呼ばれてるわけじゃねぇだろうが。覚悟を決めろ!

 「私、片倉様をお慕いしております……片倉様さえご迷惑でなければ……」

 「……は?」

 想像もしていなかった夕殿の言葉に、この上も無く間抜けな声を出したような気がする。
が、今はそれどころではない。何故ならば……などと説明するまでも無いだろう。

 お慕いしております、って言ったよな。姉上でなく、俺を。

 「ちょ、ちょっと待て。慕ってるって……あ、姉上が好きだったんじゃないのか?」

 飛び起きて夕殿に詰め寄ってる俺は情けないと思うが、少し前にそう聞いたばかりだ。
それなのに慕われていると言われても、一体何のことかと思っちまう。聞き間違いではないのかとさえ思う。
聞き間違いであれば、とんでもねぇぬか喜びをすることになるのだから、それだけは避けたい。

 「だからそれは……もう十年以上前の話ですもの。私にとっては思い出話の一つに過ぎませんわ。
……でも、その方の弟君に今度は、ともなると恥知らずも良いところだと思って黙ってきたのですが……」

 なるほど……俺と違ってつい最近の話じゃないってことか……。
十年以上前の話なら、気持ちの切り替えも出来るというもんだ。
つい最近失恋した俺とは……いや、俺も気持ちの切り替えが早いのだから言えた義理じゃねぇ。

 ……考えてもみれば、こんなに甲斐甲斐しく世話をしてくれるってのは好意の一つもなけりゃ有り得ねぇことだ。
女が男の部屋に来て、なんざ何があったっておかしくねぇ。普通なら絶対にやらないだろう。
それを承知でやったってことは……。

 何だ……つまり、悩むまでも無く両想いだったってことか。何処まで情けねぇんだ、俺は。
というか何でそんなことも今まで気付かなかっ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ