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SAO−銀ノ月−
第七十五話
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がれてしまうが、コンマ一秒後に襲いかかる二発目はその肩に直撃する。

 だがあくまで掠ったのみと、須郷も《聖剣エクスキャリバー》による反撃に入る。……いや、入ろうとしたというべきか。キリトのダブル・サーキュラーが掠った肩を抑えながら、須郷が大げさに後退りする。その表情には信じられない、というような感情が浮かんでいた。

「バ、バカな……ぼ僕にペイン・アブソーバーは切っている、筈だ……」

 愕然とした須郷はそう呟いたものの、キリトにとってそんなことは何も関係はない。後退りしていた須郷にさらに追い討ちをかけるべく、黒い剣を携えて須郷の胴体を貫かんと突きを放つ。須郷は何とかその剣閃を逸らすと、左手でシステムメニューを呼びだした。あの時のヒースクリフと同じ――指定したプレイヤーに対する強制麻痺。

 しかし須郷の自信ありげな表情とは裏腹に、あの時やリズのように麻痺はいつまで経っても起こらない。須郷は新たに魔法を詠唱すると、巨大な風圧を左手から発生させると、無理やりにでもキリトとの距離を離す。

「まさか……これは……!」

 《聖剣エクスキャリバー》や強大な魔法、その改造されたステータスやアバターは元のままだった。だが、プレイヤーを強制的に麻痺させることや一方的なペイン・アブソーバーなど、ゲームマスターとしての権限を須郷は失っていた。キリトと須郷の理不尽な差を埋めるような、本来ならば一方的になるはずのこの神との戦いを、フェアネスなデュエルにまで昇華したような――と、そこまで考えた瞬間、俺の脳裏に一人の男が横切った。

 俺のその考えを裏付けるかのように、空中に浮かんだ闇にある文字が浮かんだ。システムID《ヒースクリフ》。かつてあの浮遊城にいた、最強のプレイヤーの名前だった。

「またアンタなのか……どうして! アンタはいつも、いつも! 僕の邪魔を! 茅場ぁぁぁぁ!」

「……結局アンタは、ただの盗人の王だったってことだな。須郷」

 頭上に浮かんだシステムIDにキリトは全てを察したように、憐れみの視線を叫ぶ須郷へと向ける。その茅場に対する怨念に満ちた叫びは闇の中に消えていき、当の茅場はもちろんのこと、答える者は誰もいない……

「……ショウキ」

 抱き止めていた俺の腕の中から、ボソリと呟いたような彼女の言葉が聞こえた。久しぶりに聞いたようなその声の主は、ひどく申し訳なさそうに俺を見上げていた。

「リズ……良かった……!」

「ちょ、ちょっと!」

 先程とは正反対の意味で彼女を抱き締めるものの、その彼女の抵抗にあってほどかれてしまう。似合わない寂しげな表情をした彼女の肩に手を乗せると、二人で闇の部屋の中央にいるキリトと須郷の方を見る。

「今は、キリトの戦いを見届けよう」

「……うん」


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