第十三話
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夫です。……だから、そのように泣かれますな」
……泣く?
自分の頬に手を当ててみれば、指摘されたとおりに濡れていた。
泣いている自覚すらなかったのかと思うと呆れ果ててしまう。
本当に、何処まで俺は女々しいのか……嫌気が差しちまう。
「……貴女には情けないところばかり見せているな」
苦笑してそんなことを言うと、夕殿は黙って首を振った。
「厳しい顔をしているよりも、その方がずっと私は好きですわ」
好き、と言われた言葉にどくんと一際大きく胸が鳴る。そんな意味じゃねぇと頭では分かっていても、高鳴る鼓動が抑えられない。
おい、何を考えてるんだ。好きだ、なんて言われて胸をときめかせるなんて……
まるで恋を覚えたばかりの女のようじゃねぇか。俺にそんなもんは似合わないだろうが。
「片倉様?」
きっとこの上もなく情けない顔をしている。泣いて顔を赤くして、人に見せられる顔じゃないことは分かっていた。
俺はしっかりと夕殿を抱き返して、涙も顔の赤みも収まるのをじっと待った。
その間、夕殿は何も言わずにただ俺を抱きしめて優しく背を擦ってくれていた。
その手がとても暖かくて、安堵している自分がいることには気付かない振りをしたのは、多分最後の意地だったのだと思う。
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