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竜のもうひとつの瞳
第十三話
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……
そういう女ではなかったように思うんだがなぁ。
そんなことを言えば殺されるのは目に見えているから言わないが。

 「優しい……か。俺には怖い印象しかない……子供の時分から厳しく躾けられた覚えしかねぇ」

 「そういえば、喜多様が親代わりになられていたんですよね。片倉様の」

 早くに両親を亡くしている俺の親代わりになってくれたのは大姉上で、
学問、剣術、武士としての有り方等々全て姉上から教わったものだ。
一切の甘えも許さずに厳しく接せられて、小さかった頃は隠れてよく泣いていたのを覚えている。
そういう時は、いつも姉上が俺を見つけて、姉上は俺を抱きしめて気が済むまで泣かせてくれた。

 姉上はいつも俺を守ってくれて、優しくしてくれた。それなのに……そんな人にやましい感情を持つ俺は最低だ。

 思わず気分が落ち込んで溜息をつけば、夕殿はまた笑っている。

 「そのお陰で今日の片倉様があると思えば」

 「……ああ、良くも悪くもな。姉上、いや兄上には今の俺が気に入らないようだが」

 いつも戦場で“私の可愛い小十郎は何処に行った”と嘆くものだから、今の俺は全否定かと少しばかり悲しくも思えてくる。
確かに姉上のような人になりたい、と言ったことは事実だが、今の俺が姉上に直結してるかと言えばそういうわけでもない。
というよりも、伊達の中にいれば、否応なしにこうでもならなけりゃやっていけないのは分かって貰いたいところなのだが。
昔みたいに泣いてばかりいちゃあ、伊達の兵をまとめられやしねぇ。

 「景継様がですか? 私達のところへいらっしゃる時は、いつも片倉様のお話をされていきますけれども……
そんなことは一つも聞いたことが」

 俺の話題を? 姉上が? というか、あの人は侍女のところに来て平気で会話をしてるってのか?

 「一体何を」

 「御幼少の頃は随分と頼りなかったけど、今は逞しく育ってくれて嬉しい、とか、
真面目すぎるところが心配だとか、早く嫁を貰って欲しい、とか……そのようなことを主に」

 「…………」

 ……正直それは喜んで良いものかどうなのか。逞しく育ってくれて、というのは喜んで良いような気がするが、
残りは……そうか、姉上に心配をかけていたのか。それなのに輪をかけて俺は……。

 また溜息をついた俺に、夕殿は少しばかり不思議そうな顔をする。

 「片倉様、失礼ですけど……景継様と何かあったのでは?」

 随分と痛いところを……いや、少々反応があからさまであったのかもしれない。
そりゃ、先程から何回も目の前で溜息を吐いていりゃ、何かあったと思うのは当然だろう。

 あまり人には話したくないことではあるが……でも、夕殿になら話しても良いような気がしていた。

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