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竜のもうひとつの瞳
第三章〜その頃、奥州では〜
第十二話
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行けねぇじゃねぇか……昨日の分の仕事もまだ終わってねぇってのに……。

 何処か人事のように考えている自分に苦笑しつつ、次第に騒がしくなってくる音を聞きながら、ゆっくりと意識が消えていった。



 ぼんやりと目を開くと、いつの間にか自室で横になっていることに気付いた。
閉ざされた戸の隙間から夕日が差し込んでいる。
何故部屋で寝ているのか、と回らない頭で考えていたところで静かに戸が開かれ、俺はそちらに視線を移す。

 「お気付きになられましたか」

 優しく語り掛ける女に見覚えはないが、何となく声に聞き覚えがある。
そうは思うものの一体何処で聞いたのか思い出せない。
珍しいことだ、そう思うが考えてもみれば侍女とはあまり普段関わることがないから、
未だに顔と名を覚えていないというところはある。だから無理も無いのかもしれないが。

 「今朝、廊下で御倒れになられたんですよ?」

 そんなことを考える俺に気づいていないのか、女はそう言葉を続けていた。
そういえば、廊下を歩いていたら突然目の前が真っ暗になって、その後の記憶が無い。
結局体調管理が追い付かずに倒れてしまったのかと思うと、少しばかり情けなくもあった。

 「……見つけて人を呼んでくれたのか」

 「…………。ええ」

 侍女は俺の問いに若干の間を置いて返事をしていた。
これが間髪入れずに返されたものであれば疑問も持たなかったのだが、流石に間を置かれると気になって仕方が無い。

 ……その間は何だ。一体何があったって言うんだ。

 「何か、あったのか?」

 侍女は言って良いのか悪いのか、そう戸惑うような表情を見せている。
話すようにと促せば渋々といった面持ちで俺に状況を説明してくれた。

 「御倒れになる直前、壁伝いに歩かれているのを見て声を掛けようと近づいたのです。
その途端片倉様が前のめりに倒れて……その、私を下敷きにするようにして廊下に倒れて」

 ああ……だから倒れたのに廊下に叩きつけられた痛みが無かっ……
は? ってことは何か? 俺は廊下で侍女を押し倒すような形で倒れたってことか?

 な、何てことを……

 ぼやけていた頭が一瞬にして鮮明になり、思わず飛び起きて頭を下げようとしたものの
先程まで倒れていた人間がそんな動作が出来るはずもなく、
酷い眩暈に襲われて座ってるのか倒れてるのか分からない状態になってしまった。

 「か、片倉様!?」

 侍女の悲鳴のような素っ頓狂な声が聞こえる。
今どうなってるのか分からないが、身動きが取れない俺に呼びかける侍女の声に冷静さが戻ってくる。

 「しっかりなさって下さい!」

 徐々に眩暈が引いていくと、ようやく自分が今どういう格好でいるのかが
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