第十三話
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元々ここにいたロアであった子は、努力家ではあるものの演奏がうまいとはっきり言えるわけではなかった子に。そして、誰からも上手だといわれるクラリネットの腕でそれから先を過ごしていく。……ロアではなく、人間として、ね」
……待ってくれ。そう言いたかったのに、俺の口は動いてくれなかった。
ロアが人間になる。それも、元々いた子を乗っ取るような形で。でもそれなら、その子はどこに行く。
「……そしてその子は、『音楽室のクラリネット』というロアになるの?」
「そうだとも。初代は完全なロアであり、二代目以降はハーフロアとして。そしてその二代目の少女が練習を重ね、プロを名乗れるくらいとまでは言わなくても、十人中十人がうまいというくらいのレベルになったら、また同じ境遇の子と入れ替わる。二代目の少女は、その女の子に。そしてそれから先、その女の子として暮らしていく」
「そしてその女の子は、三代目の『音楽室のクラリネット』になる」
「その通り。そして、それが繰り返され繰り返され、今は鈴嬢が『音楽室のクラリネット』となったのだ」
……ならつまり、俺が見た鈴ちゃんは、鈴ちゃんの前の『音楽室のクラリネット』ということ。
「……なあ、テン。こんなことあり得るのか?」
「本来なら、あり得ないわよ。でも……そう言う『物語』なら、可能性はあるわ」
そして、これはそういう物語。だからそうなった、ということか。本当にどこまで自由なんだ、ロアというのは。
でも……ロアなりたての俺には、理解するのが難しすぎる話だ。ちょっと頭が痛くなってきた気がする。
「大丈夫ですか、パイセン?」
「あ、ああ……まあ何とか。まだ大丈夫だ、うん。それで……鈴ちゃんは、このことに対して何かあるの?」
「う〜ん、そうですね……最初は、ありましたよ。『なんでこんな目に会わないといけないんだー!』って。絵さんに当たり散らしたこともあります」
それはそうだろう。俺みたいにいつの間にか勝手にロアにされてただけでも文句を言いたくなってくるのに、鈴ちゃんの場合は押し付けられたんだから。しかも、こういう場所固定型のロアはそこから離れることができないものらしいし。
「まあでも、今は割とそうでも無かったり」
「……そう、なのか?」
「はい。だって、前の人はこんな状況でずっと過ごしていたんですよ?そんなの耐えられない、戻りたい!って思う気持ちが理解できちゃって。その気持ちを抱いて、それはもう必死に練習したんだろうなー、って。そうしたら、もう仕方ないやって」
……鈴ちゃんが、強すぎる。どうやったらそこまで思えるんだろうか。
目の前の笑みが無理しているように感じられなくて、俺はただひたすらに尊敬した。
「そういうわけで、まあいつかは同じことをして次の子と入れ
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