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歪みすぎた聖杯戦争
2話 運命は狂いだす
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ように俗世の最新技術などは用いない。
彼が頼みとする遠隔通信の手段は、宝石魔術を代々継承してきた遠坂家ならではの秘術である。
冬木市は深山町の高台に聳える遠坂邸。その地下に設けられた時臣の工房には、俗にブラックバーン振り子と呼ばれる実験道具に似た装置が用意されている。
ただの物理科学の器具と違うのは、振り子の錘になっているのが遠坂伝来の魔力を帯びた宝石である点と、それを吊るす紐を伝ってインクが宝石を濡らす仕掛けになっていることである。
この振り子の宝石と対になる石が。遠坂の間諜には預けられている。
その石をペン軸の先端にはめて文字を書くと、それに共振して振り子の宝石が揺れはじめ、滴り落ちるインクが下のロール紙に寸分違わぬ文字を描き出す、という仕組みなのだ。
いま魔石の振り子は、ちょうど地球の反対側のロンドンにある対の石に共振しはじめ、一見無秩序に見える奇怪な反復運動で、すらすらと正確に報告書の筆致を再現し始めた。
それに気付いた時臣は、まだインクの生乾きの用紙を取り上げて、逐一、その記述に目を通していった。

「何度みても如何わしい仕掛けですね」

その様を傍らで見守っていた言峰綺礼が忌憚のない感想を漏らす。

「フフ、君にはファクシミリの方が便利にでも見えるのかね?これなら電気も使わないし故障もない。
情報漏洩の心配も皆無だ。なにも新しい技術に頼らなくても、われわれ魔術師はそれに劣らず便利な道具を、とうの昔に手に入れている」

それでも綺礼から見れば、誰にでも扱えるFAXの方が利便性ははるかに高いと思えたが、そういう手段を''誰もが''使うという必然性は、きっと理解のにあるのだろう。
貴人と平民とでは、手にする技術も知識も異なっていて当たり前……
今の時代にもそういう古風な認識を貫いている時臣は、まさに筋金入りの''魔術師''だった。

「''時計塔''からの最新の報告だ。''神童''ことロード・エルメロイが新たな聖遺物が手に入れたらしい。
これで彼の参加も確定のようだな。ふむ、これは歯応えのある敵になりそうだ。
これで既に判明しているマスターは、我々も含めて五人か……」

「この期に及んでまだ二人も空席があるというのは、不気味ですね」

「なに、相応しい令呪の担い手がいない、というだけのことだろう。時が来れば聖杯は質を問わず七人を用意する そう言う員数合わせについては、まぁ概ね小物達だからな。警戒には及ぶまい」

時臣らしい楽観である。三年の期間を師事してよく解ったが、綺礼の師たるこの人物は、こと準備においては用意周到でありながら、いざ実行に移す段になると足元を見なくなるという癖がある。
そういう些末な部分に気を配るのは、むしろ自分の役目なのだろう、と、すでに綺礼も納得済みだった。

「まぁ用
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