与えられた禊名
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えておきたかった人材の一人。荀家の家系まで調べて居ないと分かった時の虚脱感は、秋斗以外の誰も知らないが物凄く大きい。
本当に深い所まで三国志を知っているわけでない彼は、現状の流れと覚えている史実を秤に掛けて詠の名前を考えた。
その点で言えば、荀家に所属するなら荀攸で決まりである。
ただ、不安が一つ。
――早死にする名前ってのは……本当はよくないんだろう。
史実の詠である賈クよりも先に死んでしまう人物の名だ。不安が出ないわけもなく。
新しい名を考えるというのもありだが、典韋である流琉や公孫賛である白蓮、そして生き残った麗羽や斗詩や猪々子の事を考えれば何かしらの介入によってそのまま生かせる事が分かる。ある意味、運命を共に捻じ曲げたいという決意を込めた名でもあるのだ。
嫌な未来を寄せ付けないようにするならば、本当は賈クが良かった……が、外部の問題でそれが出来ない。
なにせ、まだ飛将軍が生きているのだ。三国志を最も掻き乱した単一暴力が、あろうことか怨嗟に染まった陳宮と共に敵討ちを狙っているという。
彼女達をより深い怨嗟に落とさない為には、詠を一人で表舞台に上げる事は出来ないし、昔の名前を彼女だけ名乗らせるなど出来ようはずも無かった。
――だけど……どうしても『攸』の名を詠に持って貰いたい。
ただ、それら以上に、彼はその名の意味にこそ重きを置いていた。
「洗い流され、禊ぎ悔い改めし存在……か」
己が罪を認め、誰かに告げて悔い改め生きていく……図らずも『攸』の字はそんな意味を持っていたのだ。
だから彼は、決められた道筋を打ち壊すと誓ってでも詠にこの名を送りたかった。
ぴったりだと言わんばかりに華琳が紡ぎ、朔夜と雛里がコクコクと頷いた。
「詠さ――――ふぇ?」
「あわわ……」
皆の視線が向くと、詠は朔夜をぎゅうと抱きしめて顔を見られないように隠した。
震える肩から分かる。彼女は……泣いていた。
「……素直じゃないわね、詠」
「な、何が、よ……」
「朔夜、後ろを向きなさい。秋斗は……嫌とは言わせないわよ」
「……はいよ」
「っ! ば、ばかぁっ! やめっ」
朔夜がくるりと身体を反転させれば秋斗の隣に詠の背中。優しく抱き上げて、秋斗は詠を膝に座らせた。
ぽんぽんと頭に手を置いても、詠は逃げ出さずに唇を噛みしめた。そのまま幾瞬、秋斗の方に向き直り、ぎゅうと抱きつく。
「何よっ……なんでっ……そんな……うぅ〜〜〜〜」
黒の衣服に顔を押し付けて、泣く声はくぐもって聴こえない。
自責の想いは随分前に打ち消した。生きていく上で割り切った。
それでも名前を変えるという事は、昔の自分を無かった事にしてしまうようなモノ。
しかし名に刻
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