与えられた禊名
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が珍しかった為に、小さく噴き出した。華琳も愛おしげに彼女を眺めて頬を緩める。
「な、ななな何よ!」
「ふふっ、普段のあなたも凛々しくて好きよ。でも照れてるあなたも可愛いわね、詠」
「う……あ……くぅぅ……」
もはや何も言うまい。この場に居る誰も、華琳の悪戯には勝てない。
今度は朔夜が詠の頭を撫でて落ち着かせていた。
可笑しくて笑いそうになる所をどうにか堪え、大きく息を付いた秋斗が華琳を見据える。
「まあ、えーりん本人は問題無さそうだな」
「桂花も私が言えば聞くから大丈夫でしょう」
「じゃあ……そうさな、えーりんが荀家に入る時の名とか考えてみたんだが――」
「ちょ、ちょっと待って! なんで秋斗がそんな事まで考えてるのよ!」
遊ばれて震えていた詠も、さすがにいきなりそんな事を言われては喰い付かざるを得ず、驚愕から大きく声を張り上げた。
「いや……ごめん、えーりんとゆえゆえに何か返せるかなって思って」
申し訳なさげに眉を寄せて謝り、いらぬおせっかいだったと謝罪する彼は華琳の時とは違い素直で、詠は言葉を返せなかった。
――なんでこういう時にそんな事いうかな……もう……
恥ずかしかったのが八割。いつも通り自分だけで考えていた事に対する怒りが二割。そんな心の中身が、たったそれだけで嬉しさ一色に塗り込まれる。
卑怯だ、とは言えない。惚れたもの負けだと知っているし、彼の無自覚さも知っている。
名付けて貰うのは、嬉しいのだ。例えそれが今の秋斗であっても……雛里とは違って、変わらない彼に惹かれ始めていたから。
「……言ってみなさいよ」
けれども素直にはなれない。また顔を真っ赤に染めて、詠は彼をジト目で見やった。
そんな彼女の心も分かっていてか、申し訳ないと思っているからか、彼はいつも通りに苦笑を一つ。
「ありがと……“荀攸”ってのでどうだろう?」
それぞれが耳に入れた名に思考を馳せる中、綴られた名がどんなモノかを知っているのは秋斗だけ。
――この世界には……“荀攸”が居ないからな。
官渡の戦いでは居たはずの曹操軍の有能な軍師がおらず、重鎮となったはずの詠も名前を失っている。史実とこの世界の相違点についていつでも思考を積み上げている彼は、それなら居ない軍師の中で詠に相応しい名前を持って表舞台に出て貰いたかった。
官渡の戦いよりも前、街に居た時点で自分に出来ることと言えば、このねじ曲がった世界でも知識を生かせるかどうかである。
その中には人材の登用があったのはいうまでもなく、思い出せる限りの名前を探してみても収穫はほとんどなし。
それとなく風に尋ねてみても、聞いたことが無いなんて返事が返ってくる。
特に荀攸は、官渡直前に何がなんでも揃
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