その3
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教室に入り、菊の横を通り過ぎる瞬間――
「……」
「……」
(チラッと俺の方見た。なんて思ってんのかな…)
「ギルベルト先生、私のお花見て!」
「ずるい! 私のも!」
俺が教室に入り女子生徒たちとの距離が近くなってから、さらに騒がしくなったきがした。
「へぇ、うまくできてるな」
菊を意識しつつ、生徒と会話する。
「色のバランスもいいし、家に飾ったら綺麗なんじゃないか?」
「いいでしょー。本田先生のアドバイス通りやったら、うまくできたんだ」
「…へぇ」
思わず菊の顔を見る。目が合うなり、ふい、と目線を逸らされてしまった。
「すごく優秀な先生なんだな」
(頬がかすかに赤くなった。照れてやがるな)
俺はこの状況を、次第に楽しみ始めていた。
(菊と職場恋愛したらこんな感じなんだろうな……。周りにばれないよう、こっそり目で会話したりして)
「みんな、本田さんに聞きたいことはないか」
俺の企みなど知る由もなく、モブ田先生が生徒たちに呼びかける。
「せっかく来てくださってるんだから、どんどん質問しなさい」
「じゃあしつもーん」
一人の生徒が手をあげる。
「本田先生は、どうしてフラワーアレンジの仕事を選んだんですか?」
「やっぱりお花が好きだということと…」
(質問に素早く的確に答えている。こいつって意外と教師に向いているのかも)
「作るときに気をつけてることってありますか」
「そうですね…そのお花が飾られる状況を想像して、作るようにしています。例えば誰かにプレゼントしたいと思ったら、相手の笑顔を思い浮かべてみるとか。花束をもらうと、やっぱり嬉しくないですか? 相手の喜ぶ顔を想像すると、アレンジもうまくいきますよ」
(目をキラキラさせやがって…そんなかわいい顔すんなっての。って、仕事中なのにこんなに見とれて。俺って職場恋愛に向かないな…)
俺は菊や生徒たちにバレないよう、こっそり苦笑いを浮かべた。
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