9部分:第九章
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第九章
「利樹さんです。小山田利樹さんです」
「小山田さんっていうと」
「班長かな」
「そうだよな」
彼が名前を聞くとだった。日本の技術者達は顔を見合わせてそのうえで言い合うのだった。思い当たるふしがあるのだった。
「あの人だよな」
「名前も同じだし」
「おられるのですか」
そんな彼等の言葉を聞き逃さないゴーだった。長年の戦場での生死をかけたやり取りが彼をそこまで鋭くさせたのである。
「その小山田さんが」
「ええ、少し待って下さい」
「今呼びますので」
こうしてだった。もう老人になろうとしているがあの時の面影をまだ残している彼が出て来たのだった。するとお互いに。
「まさかと思うけれど」
「はい、お久し振りです」
驚く彼に笑顔で告げるゴーだった。
「お久し振りですね」
「ゴー君かい。いや、今はゴーさんだね」
「本当に戻って来てくれたんですね」
「長い間待たせたね」
申し訳なさそうな顔になる利樹だった。その顔は皺が刻まれ髪もしっかり白くなっている。しかし顔立ちはあの頃のままであった。
「けれど。戻って来たよ」
「そうですね。約束通りですね」
「そうだね。こうして田仕事をまた一緒にね」
「やりますか。いや、私もですね」
屈託のない笑みを浮かべながら。ゴーは言うのだった。
「ずっと戦争に参加していまして」
「戦争?ああ、そうだったね」
戦争と聞いてすぐに察した利樹だった。ベトナムのことをだ。
「この国は長い間」
「けれどそれはようやく終わりました」
ここでも屈託のない笑みを浮かべてみせるゴーだった。彼はもう軍人ではなくなっていた。あの田にいつもいた彼に戻っていたのである。
「それで今」
「そうだね。じゃあ今からまたしようか」
「久し振りに」
こう言い合ってであった。彼等はすぐに田仕事に入った。そうして仕事をしながらこれまでのお互いの積もる話をしていくのだった。
それからまた時間が経った。そうして今村の若者達に対して話をしているのだった。
「変わったよ、本当に」
「戦争はなくなって」
「それで俺達は腹一杯飯を食ってるよな」
「それだけでも大きな違いなんだがな」
その食べ物のことも話すゴー爺さんだった。
「しかも米の他にも食えるようになってきたしな」
「あれっ、米だけしか食えなかったのか」
「昔は」
若者達はそれを聞いても驚くのだった。
「昔はそうだったのか」
「またそれは」
「本当に何もかも昔になったのう」
爺さんは彼等の言葉を聞いてしみじみと述べた。そしてさらに言うのだった。
「しかし今はじゃ」
「平和になって」
「何でも食えるか」
「そしてじゃ」
さらにであった。
「こうして日本人達とまた一緒に田仕事ができるからのう」
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