ただいまはまだ遠く
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も月姉さまの元で自活出来る予防線が出来上がった……そこまで、あなたは考えていたんですね、秋兄様。
物見台の上で動かない彼を見て、甘い視線を浮かべる朔夜から熱い息が漏れた。
誰かに従う器ではないのは分かっていたが、覇王に認めさせた上で内部の反抗勢力を作り上げるというバカげた策を練る彼に羨望すら感じていた。
彼が作るのは同盟などでは無い。利害関係が明確化された別個体同士の関係性ではなく、現代社会で言う親会社と子会社のような、家でいうなら本家と分家のような、そんな組織を組み上げるつもりなのだ。
統一でありながら統一でない国の在り方は朔夜にとって新鮮で、それでいて現実的な理で成り立つ未来の世界を色鮮やかに見せてしまう。
しかし……やはり、と思って朔夜は華琳を見上げた。
――それを許容できる存在……否、そうなって欲しいと求める事の出来た覇王こそ、異端です。あなたは正しく、全てを呑み込む化け物です、華琳様。
恐ろしさに、ぶるりと震えあがった。
ふるふると首を振って、朔夜はまた、異常な処刑場の隅で彼の為の思考を開始していく。
涼しい顔で麗羽を見つめる華琳の表情は変わらない。
生きても死んでもどちらでもいいと思っているのではなく、麗羽が必ず辿り着くと確信している……そんな表情。
篝火が照らし出す道では、麗羽が速度を遅めながらも這っている。
耳に届く歌は想いの歌。主に捧げる心の歌。心地よい響きに耳を澄ませて、華琳は動かずに彼女の到着をただ待っていた。
――人が足掻く姿は美しい。麗しさは無くとも、結果がどうであろうと、泥濘でのたうち何かを手に入れようとする人間の生き様は評価に値する。後悔に身を染めて、それでも前を向くあなたは……美しいわよ、麗羽。例え足掻くそこが、他人の思惑だらけで準備された昏い場所であろうと……。
自分の掌で踊るだけの道化だとは、華琳も思っていない。それは彼女に対する侮辱に等しい。結果がどうであれ、彼女が足掻いているという事実がただ嬉しい。
麗羽は失ったことへの後悔で過去に縛られているというより、それを背負い受け入れた上で未来に描くモノを己が手で掴もうとしている。
――あなたもやはり王足り得る。未来の為に形振り構わず縋り付くあなたは、嫌いではないわ。
辿り着いてみせろと願い、華琳は彼女を見続けた。しかし……予想に反して、麗羽の動きは止まった。
歌が耳に響いていた。
恐れた歌は心の中にある自分の罪を苛んで仕方なかった。
自分の兵士達が見ている。目に入った兵士達の表情は、畏れと悔しさが外に出ているだけ。
誰も声を掛けてくれない。誰も自分を助けてくれない。麗羽は今、一人ぼっちで進むしかなかった。
脚が痛い。身体も痛い。心も痛い。まだ半分程度し
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