ただいまはまだ遠く
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責められず、民の味方として認識され、生贄の巫女に等しい王となった。
その点、麗羽には何も無い。
兵士達の心を汲む事も、甘い綺麗ごとを口から出す事も無かった。権力と金の装飾が剥がれてしまえば、彼女には何も残らない。
忌み嫌われる乱世の悪を為し、理不尽に平穏を奪った大罪人。特に白蓮こそ王だと思っている白馬義従達からすれば、自分から何もせずに欲に走った王など許せるはずもない。
歌を耳に入れる度、自責の鎖が身を引き絞る。麗羽の速度がまた遅くなった。
怖い、恐いのだ。誰かの大切を奪ったという事実が怖い。自分の醜悪さを兵士という民から見せつけられて、白蓮と比べられているのが怖い。自分が辿り着けない所に凡人であれど辿り着いた白蓮に復讐されるのが怖い。
優しく甘い友人であった彼女の事を、麗羽は嫌いではなかった。
真名を交換した彼女に、彼らと同じような怨嗟を向けられるのが恐ろしい。
もし、白蓮が甘さを捨て、憎しみに走ったら……ただでさえ真名を世界に捧げる事で自分の存在そのモノを奴隷以下に落とすというのに、その存在さえ否定されるのではないかという恐怖に陥る。
吐き出す息は荒く、その歌が聴こえるから表情が恐怖に滲んだ。
“自分には何も出来ないけれど、せめて言葉で伝えたい”
白蓮の為に何も出来なかった彼らが、詞に乗せて彼女への想いを綴る。
麗羽を言の葉で殺す事で、彼女の手を汚させないようにしているのではないか。
“何か一つでも力になれたなら、それはどれだけ幸せでしょう”
後悔を力に変えて前を向き、彼らは今この時を生きている。まだ生きている彼女の為に。
戦った事実が白蓮の力になれるなら、きっと彼らにとってはそれで幸せなのだ。
“愛してくれた感謝を込めて、あなたの幸せを祈っていいですか”
ずっとずっと守ってくれた彼女の為に、彼女が笑って過ごせる世界を望む。
その幸せの為には……祈りを呪いに変えて、彼らは歌を歌い続ける。
這いずっている麗羽を物見台の上から見下ろしている秋斗は少しも動かなかった。
助けるつもりもなく、救いを与えるつもりもない。
もはや賽は投げられた。後は麗羽が死ぬか生きるかだけ。
――俺と曹操の望みを叶える為の手は全て打った。袁紹だけは綺麗事をほざいて生かすなんざ絶対に出来ない。内密に逃がすとか、ゆえゆえ達のように隠して生かすとか……そんな事は袁紹の為にもならん。それに勝者は敗者の処遇を絶対に誤っちゃあダメだ。
思惑は幾重にも張り巡らされ、未来への手札を揃えて行く。
此処で麗羽が生きても死んでも、彼にとっては予定の一つ。
しかし個人の思惑と感情で言うならば、彼は麗羽自身に、麗羽として生きようとして欲しかった。だからこそ生きられるよ
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