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最後のストライク
5部分:第五章
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ライクかボールか、教えて欲しいんだけど」
「あっ、そっちでしたか」
「うん、どうだった?」
「ストライク!」 
 山岡はそれを受けて叫んだ。手を挙げて。実に威勢のいい声であった。
「そうか、ストライクか」
「はい、こんなボール今まで見たことはないです」
「嬉しいね。けどまだこれで終わりじゃないんだ」
「まだ投げるんですね?」
「ああ、もうちょっと投げさせてくれ」
「わかりました。それじゃあ」
「石丸、来い」
 本田もグローブを構えていた。
「御前の球、どんどん受けてやるからな」
「これが最後だ、パスボールだけは勘弁してくれよ」
「その時は身体張って止めてやる、安心しろ」
「よし」
 また振り被った。そしてまた一球投げ込まれる。
「ストライク!」
 山岡と本田は同時に叫んだ。
「よし、もういっちょ!」
「ああ、来い!」
「何か、何かね」
 山岡は泣きはじめていた。
「これで最後なんて。何か・・・・・・」
「山岡さん、あんた作家だったよな」
「はい」
 本田は後ろを振り向いて山岡に声をかけてきた。山岡はそれに応えた。
「だったらさ、これで最後なんて言わないでくれよ」
「何故ですか?」
「あんたは戦場に立たないけれど、俺達を見ていれくれてるんだよな」
「はい」
「だからだよ。俺も石丸も行って来るから。そして」
「そして・・・・・・?」
「靖国にいるからさ。そこにいるから」
「靖国にですか」
「そうさ、だから安心してくれ。そこに行ったら皆いるんだ」
「皆・・・・・・」
「ここから出撃した奴等もな、皆靖国にいるんだ」
 彼は今前を見据えていた。石丸はまた投げようとしていた。
「そこにいたら俺達もこの戦争で死んだ奴等もいる。あんたはそれをじっと見ていてくれ」
「それを後世に伝える為ですか」
「そうさ、俺も石丸も」
 その言葉には迷いはなかった。実に澄んだ言葉であった。一点の曇りもない、晴れ渡った言葉だった。だからこそ殊更悲しい言葉でもあった。

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